九月の空 (角川文庫)
高校剣道部員を主人公にした青春小説三部作。同著者の他の青春小説はユーモアをまじえた軽いタッチのものが多いが、この小説は硬質の文章で書かれている。
「五月の傾斜」3作の中でも飛び抜けて素晴らしい出来。
体の底から突き上げる衝動、自我肥大的正義感、生温いくせにびくともしない現実の壁、不器用さの中で空回りする意気込み... 大人になるということは、いくつものわだかまりを乗り越えるのでなくそれらをただ置き去りにしていくだけだということなのか。読後しばらくは学生時代の感情的な出来事の数々が頭を駆け巡り、いつまでも興奮が抑えられなかった。
「九月の空」
前作で芥川賞選考委員から‘女が描けていない’と指摘されたことに応え性の問題も正面から取り上げている。しかし課題をこなして賞は獲ったが明らかにレベルは落ちた。
3作ともに70年代の空気を色濃く映し出すが、たとえばこの作品では主人公の男子高校生が旅館で女子大生二人と相部屋になる(もちろんさほど心配な展開にはならない)など、現在では考えられない設定がまま見られる。
「二月の行方」
貧困や障害を背負う者の日常を同じ目線に立って見つめている。重苦しくなりがちな空気をある種のすがすがしさが貫く。これはこれで相応に読み応えがある。
ひと粒の宇宙 (角川文庫)
好みの作家が入っていると、つい買ってしまうアンソロジー。
30人いれば、読書好きなら一人くらいはヒットするだろう。
初めて出会う作家の作品もあって、そういう意味では面白いが
どうもホラーチックなオチの作品が多いのはなぜ?
優れた短編ならではの、人生を鋭利な刃物でスパッと
切り取ったような作品がもっと読みたい。
BLEATH LESS ブレスレス [DVD]
東京、杉並区阿佐ヶ谷を舞台にした、ある意味中央線気質な映画。
クサいなあと思う台詞でも、後々効いてくるから不思議です。
さらにクサいと思う演奏シーンも、かなり効いてくる。
昭和と平成の間を行き来するような、あったようでなかった不思議なトーンの映画。