How to Solve It: A New Aspect of Mathematical Method
数学の問題を解く方法が、学生を指導する、という視点で体系的に述べられています。 解答を導き出すための学生への質問集も用意されています。 考え方にびっくりするほどの斬新さは感じられませんが、数学教師や数学を志す人には役立つと思います。 では数学以外の一般的問題解決やプロジェクトなどの問題分析に役立つかというと、プロセスマネジメントが発達した現代ではそこまでの応用力を求めるのは無理かな、と感じました。 文章は簡潔で英語は読みやすいです。 今まで馴染みのなかった数学英語に接することも出来ました。また、錆付いた数学知識を(ある程度)思い出すきっかけになったと思います。 ガリレオ時代のフランスの学者 Descartes,Reneが引用されていたりもします。
いかにして問題をとくか
G.ポリアと芳沢光雄氏の両方を尊敬する者として、同日にそれぞれの著書のレビューを発表したい。
ポリアは数学に秀でただけでなく哲学や物理学が得意で、同時に心理学にも親しんでおり、彼の中ではこれらの学問の垣根がほとんどない状態で自由に思想を組み立てる能力があり、それがポリア流「発見的教授法」の確立につながった。
ポリアは本書で、数学における<ポリア流「問題解決」のモデル>を確立している。そのもとになったのがパプス、デカルト、ライプニッツ、ボルツァノらが論じた近代発見学で、人間の思考における「ひらめき」について論じた学問である。ポリアと同時代に、フランスの数学者ジャック・アダマールがおり、ポリアは1914年にパリであってアダマールと面会している。ちなみに、アダマール行列のアダマールである。
アダマールも優れた数学者であるが、ポリアもまた「ひらめき」について興味を持ち、彼は1900年当時の指導的な物理学者100人に対して、彼らがどのように自分の業績を成し得たかを調査しており、それは後にThe Psychology of Invention in the Mathematical Field (Dover, 1954)にまとめられている。ポリアもアダマールも発見学に興味をもって研究しており、ポリアは「近代発見学」の項目で、他の物理学者・哲学者・心理学者らの名前とともに、アダマールの名前を挙げて、敬意を表している。
「ひらめき(inspiration)」について、ポリアは同著の中で、次のように述べている。
昔はこのようによい考えが突然浮かんでくることを霊感とよび、神の恵と考えていた。諸君は働くことにより、又は少なくとも熱望することによりはじめて霊感をうることができるのである。* (P154)(芳沢氏の「いか問実践活用編」182ページの指摘は適切である。)
原始的な、ほんやりした表現の背後には、あやまることのない感じというものがあって、それにしたがってゆけば正しい方向に進めるというものである。そのような感じが非常につよく、しかも突然わいて出るならば、われわれはそれを霊感とよぶ。霊感は多く疑うべきではないが、しかしときとしてそれは人を欺くものである。われわれはこのようなわれわれを導いてくれる感じ、霊感を、ちょうど前に考えた、もっとはっきりと表現することのできる進歩の兆候を扱うのと同様に扱うべきである。(P188)
この発見学は、人間の素晴らしい「ひらめき」がどのようなメカニズムで起こるのかという、非常に捉えどころのない現象を扱っているため、ポリアは、数学の厳密な証明を書くのと同じような記述はできないことを踏まえながら、数学の問題を解くに際に、この「ひらめき」のメカニズムを4つのステップに<一般化>している。
ポリアはさらに、この4つのステップにおいて、いかに頭に「ひらめき」が生じやすい環境にするかについて、その助けとなる「リスト」を作成したのである。これが、ポリアが著作の中で何度も繰り返して強調する「われわれのリスト」であり、「問いや注意に関するリスト」なのである。
ポリアの偉業は、人間の思考における「ひらめき」が生じるメカニズムを4つのステップに凝縮したことと、これこそが数学をはじめとする科学のみならず、一般社会における様々な問題を考えるときの発想の基礎を提供したことである。(芳沢氏の「いか問実践活用編」は、その基礎の部分と日常生活・ビジネスとの間を埋める平易に述べた挑戦的な書である。)
なお、現在広く知られているPDCAサイクルとの歴史的な関係は、いま一つわからないところが残念である。
最後にポリアの言葉でもっとも大切にしている2つを述べさせていただく。本レビューのペンネームはそれから考えた次第である。
解答のプランを考えるときには、厳密でない、いわば見当をさぐるための発見的な推論を恐れてはならない。正しい結果にみちびくようなものはすべて正当なものである。しかし解答を実行する段になるとこの考えは変えなければならない。われわれは断定的な、厳格な議論だけしか受け入れてはならないのである。(P87)
計画を実行するために、われわれは各段階を検討する。その検討には直感的な洞察若しくは形式的証明が必要である。あるときは直感が先になり、あるときは証明がさきになる。その両方をやってみることはたしかに有意義なことである。(中略)直感的にみとめたことを形式的に証明し、形式的に証明したことを直感的に諒解するためには非常な精神の燃焼を必要とする。不幸にして教室ではそのようなひまは十分にない。(P90)
ハッカーのたのしみ―本物のプログラマはいかにして問題を解くか
非常に魅惑的な書名である。
なにせハッカーのたのしみだ。それは随分な"たのしみ"に違いない。
しかしこの本の実態は、ビット演算と機械命令を極めるテクニック集である。
この本の真価は、プログラマの関心と知識がビットの世界に到達したときに、
はじめて、かつ劇的に発揮される。
章立ても読み物と言うよりは、どちらかというとリファレンスに近いものだ。
文章は扱う内容と同じくらい洗練されて無駄が無い。そして難解だ。
これは全て読み通してハッカーになろうと無邪気に意気込む読者を、完膚なきまでに打ちのめすだろう。
本来この本は、プログラミングしていく中でふと高速化のヒントが欲しいときに、
ピンポイントでつまみ食いするようなものである。
そして、この本をそうした目的でつまみ食いする事が出来る人は、
もう既にハッカーの世界にいるはずだ。
だから、"ハッカーのたのしみ"なのである。
いかにして問題をとくか・実践活用編
G.ポリアと芳沢光雄氏の両方を尊敬する者として、同日にそれぞれの著書のレビューを発表したい。きっかけは、マークシート式問題偏重の日本の教育を必死で論述式重視の教育に変えるために、ひたむきな努力を傾けている芳沢氏の「いか問実践活用編」に対し、理解に苦しむコメントがあることを知ったことである。参考までに芳沢氏の多くの著書や記事の中で、数か月に一度書かれている産経新聞「解答乱麻」での主張は、その”ひたむきな努力”を垣間見ることができる参考文献である。
ポリアは「いか問」で、数学における<ポリア流「問題解決」のモデル>を確立している。そのもとになったのがパプス、デカルト、ライプニッツ、ボルツァノらが論じた近代発見学で、人間の思考における「ひらめき」について論じた学問である。ポリアは1914年にパリでアダマール行列などで有名で「ひらめき」に関心をもつアダマールと面会している。そしてポリアは、1900年当時の指導的な物理学者100人に対して、彼らがどのように自分の業績を成し得たかを調査しており、それは後にThe Psychology of Invention in the Mathematical Field (Dover, 1954)にまとめられている。ポリアもアダマールも発見学に興味をもって研究しており、ポリアは「近代発見学」の項目で、他の物理学者・哲学者・心理学者らの名前とともに、アダマールの名前を挙げて、敬意を表している。「ひらめき(inspiration)」について、ポリアは「いか問」の中で、次のように述べている。
昔はこのようによい考えが突然浮かんでくることを霊感とよび、神の恵と考えていた。諸君は働くことにより、又は少なくとも熱望することによりはじめて霊感をうることができるのである。* (「いか問」P154)
原始的な、ほんやりした表現の背後には、あやまることのない感じというものがあって、それにしたがってゆけば正しい方向に進めるというものである。そのような感じが非常につよく、しかも突然わいて出るならば、われわれはそれを霊感とよぶ。霊感は多く疑うべきではないが、しかしときとしてそれは人を欺くものである。われわれはこのようなわれわれを導いてくれる感じ、霊感を、ちょうど前に考えた、もっとはっきりと表現することのできる進歩の兆候を扱うのと同様に扱うべきである。(「いか問」P188)
この発見学は、人間の素晴らしい「ひらめき」がどのようなメカニズムで起こるのかという、非常に捉えどころのない現象を扱っているため、ポリアは、数学の厳密な証明を書くのと同じような記述はできないことを踏まえながら、数学の問題を解くに際に、この「ひらめき」のメカニズムを4つのステップに<一般化>している。芳沢氏の「いか問実践活用編」の「あとがき」182ページには次の指摘があり、極めて適切な説明である。
ここでのキーワードである「ひらめき」は、『いかにして問題をとくか』では「霊感」と訳されており(154ページ)、「霊感」を「ひらめき」に置き換えて読んでいただくとよいだろう。もちろん、それが誤訳だという気持ちは全くない。実際、フランス古典主義の画家ニコラ・プッサンの作品「L’inspiration du poe`te」は「詩人の霊感」と訳されている。
ポリアの偉業は、人間の思考における「ひらめき」が生じるメカニズムを4つのステップに凝縮したことと、これこそが数学をはじめとする科学のみならず、一般社会における様々な問題を考えるときの発想の基礎を提供したことである。芳沢氏の「いか問実践活用編」は、その基礎の部分と日常生活・ビジネスとの間を埋める平易に述べた挑戦的な書である。「いか問実践活用編」の前書きによれば、版元の丸善出版からの企画提言から出版に漕ぎ着けた書である。とくに芳沢氏に、踏み込んだレベルの高い内容は割愛し、一般向けに算数+αの内容で依頼したとあるが、この依頼と著者を芳沢氏に決定したことが本書での成功の秘訣であろう。実際、月刊文藝春秋2012年8月号に非常に意義のあるレビューが掲載されたが、これは一つの結果である。
本書は、発見的教授法のストラテジーとして重要な個々の考え方をどこで使うかという過程を、予備知識が少なくて済む離散数学的な題材を多くして誰にも平易に理解して読めるように記述されている。掛け算の仕組みなどの数学的帰納法の章の個々の例、定義に帰る章の円周率のこと、背理法の章の敷き詰め問題、条件を使う章のオモリの問題や誕生日当てクイズ、図を描いて考える章の6人のラムゼー現象、逆向きに考える章の結果から考える確率、一般化して考える章の一つを除く文章問題、特殊化して考える章の期待値、類推する章の16個の符号、兆候から見渡す章の公務員採用試験問題の裏技、効果的な記号を使う章のPERT法、対称性を利用する章の14台駐車場問題、見直しの勧めの章のAKB48じゃんけん大会8連単確率の誤りの指摘、等々はどれも章のタイトルに沿った考え方の過程をクローズアップして分かり易く説明してある。
私が芳沢氏を尊敬する要点は、信念を曲げない積極的な行動力もそうであるが、物事を的確な例を用いて分かり易く、しかも謙って説明する才能があることである。例示に卓越したセンスをもつが、「いか問実践活用編」の一般化・特殊化・類推の章を読むことによって、誰もが自分のものにできると思うのではないだろうか。もちろん本書は、芳沢氏の「新体系・高校(中学)数学の教科書」のように、扱う素材すべてに完ぺきな証明を記す書ではないし、その種の非の打ちどころのない著書と同列に読むものではないことは明らかだ。
How to Solve It: A New Aspect of Mathematical Method (Princeton Science Library)
数学の問題を解く方法が、学生を指導する、という視点で体系的に述べられています。 解答を導き出すための学生への質問集も用意されています。 考え方にびっくりするほどの斬新さは感じられませんが、数学教師や数学を志す人には役立つと思います。 では数学以外の一般的問題解決やプロジェクトなどの問題分析に役立つかというと、プロセスマネジメントが発達した現代ではそこまでの応用力を求めるのは無理かな、と感じました。 文章は簡潔で英語は読みやすいです。 今まで馴染みのなかった数学英語に接することも出来ました。また、錆付いた数学知識を(ある程度)思い出すきっかけになったと思います。 ガリレオ時代のフランスの学者 Descartes,Reneが引用されていたりもします。