八日目の蝉 [Blu-ray]
永作博美演じる女・希和子が不倫相手の家庭から生後4ヶ月の赤ちゃんを連れ去り、数年間を放浪しながら過ごす様子と、その連れ去られた女の子・恵理菜(井上真央)が成人してからの様子が交互に描かれます。
主にこの2人が中心に描かれますが、子供をさらわれ、やがて数年たって戻って来た我が子とどう接していいか分からず苦悩する母親(森口瑤子)と、成人した恵理菜にライターと称して接触する女・千草(小池栄子)がそこに絡み、それぞれが心の内に抱える深い闇をえぐる様に描き出している。
いつのまにか、犯罪者であるはずの希和子に少なからず感情移入してしまうのがこの作品の凄いところ。偽物のはずの親子関係をいとおしく感じずにはいられない。それは、「母親の無償の愛情」あるいは単純に「母性愛」と言い換えても良いかもしれないが、この映画で表現されているのは、「偽物であるはずの親子」を、いつのまにか「本物の親子」に見えさせるまでの過程に他ならない。そして同時に、いつの日かその親子関係に終わりが訪れることを我々観客が知っているからこそ、希和子と薫の親子関係が余計に切なく感じられるのだと思う。
女優陣が素晴らしい。井上真央は、笑顔を封印し、ちょっとした表情の変化で複雑な役を見事に演じていた。この作品が代表作になること間違いないし、永作博美は元々上手い役者で文句なし。写真館での表情、ラストの別れのシーンでの刑事へのセリフ(お願い)は、間違いなく母親のそれだったように思う。そして、小池栄子の怪演!!挙動不審が板についている。(笑) それぞれの女が感情を吐露する場面で、それぞれ泣かされた。
原作は未読ですが、原作が素晴らしいからこその脚本なのでしょうが、サスペンス作品にありがちな無理な展開が全くない。後半はロードムービーっぽくなって来て、恵理菜が千草と一緒に、連れ去られときに滞在した場所を巡りながら少しずつ記憶を取り戻す様子がフラッシュバックの様描かれシンクロして行く。小豆島でのシーンは時間をたっぷりとった贅沢な作りで、光と影が効果的に使われている。
子供の成長にとって最も大切なのは、DNAやお金よりも、やはり愛情なのだろうと思います。たとえば、実の子供を餓死させた母親がいたが、そんな母親よりは、ちゃんと愛情を注いでくれる赤の他人の方が子供にとってもよほど幸せだろう。
希和子の“罪”を断罪しながら観るのでなく、井上演じる薫の運命にこだわって観るとそんなことをあらためて考えました。
ちょっと誉めすぎかもしれないけれど、本作は平成の「砂の器」と云ってもいいかも。
井上真央 : 十五の夏に [DVD]
ドラマでしか見た事が無い方も多いかと思いますが、それだと『意外な一面』ばかりになるでしょうね。文庫写真集と同名ですからメイキングのシーンも入っている訳ですが、双方の単体よりも、両方にいい面があるので両方見ましょう、としか言えないですね。どーしてもどっちかだけ、と言うなら個人的にはDVDの方がいいと思うけど。
『キッズ・ウォー』の茜ちゃんのイメージで見るとどーだろ?一人の女優さんとして見て欲しいと思いますが。おもしろい動きやヘン顔するタイミングもいいです。久しぶりに『若手女優で注目すべき人材』に出会った気がします。
ちなみに自前のメガネをかけてるお顔もかわいいです(^^)←コレが一番ヒット(笑)。
とりあえず若手女優さん好きな人は持ってるべきと考えますが。
おひさま サウンドトラック
僅か1分足らずのタイトル曲は私にとっては強烈な感情を呼んでしまいました。
自然と目頭が熱くなるのはなんでだろう?
久し振りに心落ち着くような、心洗われるような気持ちです。
いずれの曲も素晴らしいと思います。
ドラマの情景もありありと浮かんできます。
渡辺俊幸氏の感性に感服です。
まさに名曲と言っても過言では無いと思います。
永遠の0 (講談社文庫)
平成の今に生きる姉弟二人が、特攻隊員として戦死した祖父の足跡を辿りながらその実像に迫っていく、というストーリーです。当事者の多くが鬼籍に入ってしまった中で、二人は数少ない生き証人を訪ねて一歩一歩真実に近づいていきます。その過程で当時の戦争がどんなものだったのか、主に下級将兵の目から見た戦争あるいは特攻がどのようなものであったのか語られます。そして最後にたどり着いた答えは思いの外身近なところにあり、それは胸熱くするものでした。
戦争という極限状況の中で語られるナマの人間模様は興味深く、特に第二次大戦は現代に最も近い時代なので戦争経験者の語る書物は幾つか読んできました。本書はそうした戦争の実態がシンプルな形で凝結していることを感じさせます。すなわち大本営は官僚化して本来の戦争の目的である勝利からは遠く隔たり、無責任主義が横行し、下級兵士の命は限りなく軽視される、という事実。そしてかつて軍神として崇められた特攻隊員が戦後になると非国民として石持て追われたり、天皇陛下バンザイと旗を振った人たちが民主主義と米国バンザイに変わったり、空気に支配されやすく、変わり身の早い日本人の国民性など、本を閉じた後も余韻が長く残り、色々な思いが去来して考えさせられました。
この著者の本を読むのはこれで3作目ですが、リーダビリティというのか、まるで映像のように読ませる力量には本当に驚嘆させられました。575ページにも及ぶ大作ですが、読了まで目を離すことができずにあっと言う間でした。そして人間描写も巧みで、つい引き込まれて何度も目頭を拭うことになりました。また大好きだった児玉清さんが解説を担当しているのも私にとってはうれしい誤算です。
本が大好きで暇を見つけては読み漁っているのですが、本書はここ数年来読んできた中でも最も心に残った一冊でした。
お勧めです。