冠 廃墟の光 (朝日文庫)
すでに13年前の開催となった、96年アトランタ・オリンピックを記したノンフィクションです。
開会式から閉会式までの17日間を、一人の観戦者としての作者の視点から記しています。
開会式、閉会式における過剰なまでの演出、USAバスケットドリームチーム、カールルイスなどから垣間見える商業主義の波、
爆破テロを沈静化させるためのスケープゴートなど、
本来の五輪から遠く離れてしまった現在社会オリンピックの空虚さが端々で見られます。
またそのような状況下で精一杯のプレーをする競技者の肉声との対比が更なる矛盾を感じさせます。
それに増してこの物語を魅力的にしているのは、旅行者としての沢木耕太郎の感性、文章だと思います。
旅先における細かな出来事からその土地の空気感まで、読者に旅を追体験させる文章が異国への思いを強く持たせます。
あとがきを読むと作者は本書のようにオリンピック全体を書くことはもうないと書いていますが、
アトランタから16年を経たロンドン・オリンピックを今の視線で書いてほしいと思います。
木村伊兵衛の眼(レンズ)―スナップショットはこう撮れ! (コロナ・ブックス)
この本には木村さんのコンタクト(フィルムをそのままプリントしたもの)がいくつか掲載されています。本には「木村のストリートスナップは居合術とも称された。出会い頭にすうっとカメラを構えてパチリ、深追いなしのワンショットである」とか「二度撮りはしない」の伝説があるとか書かれています。しかし、木村さんのコンタクトを見ると、ほとんどの場合何枚か連続して撮影していることがわかります。 木村さんが何をどう撮るのか(構図の決め方など)興味がある人には、彼のコンタクトは参考になるでしょう。
木村さんが高田美さんに「なにしろ恐ろしがらずに前へすすみ出なさい。恥ずかしいとかこわがったらカメラをやめた方がいいよ」と写真の撮り方を教えたエピソードが掲載されています。