共喰い
いまどき、こういう文学を書く人がいるんだ!と感激です。
斉藤美奈子さんが朝日新聞で分析していたように、古臭いと思う人もエグイと思う人もいるかもしれません。
でも、現代にあって、その土地の匂いが立ち上ってくるような、濃密な世界を描けるのはさすが。
たいしたことない、という人は前衛を求めているからかも。こういう王道の文学こそ、現代には希少価値だと思う。
「もらって当然」と言ったその意味がわかる作品でした。
HEP入門―“ハビタット評価手続き”マニュアル
「生態系は大切だ」といわれるが、いったい「どれくらい」大切なんだろう?
HEPは、生き物の住処を「質」と「空間」と「時間」という視点でとらえなおし、眼には見えづらい、環境の価値を「計量」し、もしも開発と生態系が矛盾する場合にどのような代替案をみつけてゆくか?の指針とする合理的なアプローチである。
本書は、日本における「HEP」の利用をリードする田中准教授による、具体的な方法論とケーススタディの良書。内容的には難しくなりがちな専門的な分野を大学生でも読めるくらいに丁寧に書いてあり、生態系を「具体的に」どう守りたいか?を考える際の参考になった。
ビクター伝統文化振興財団賞 「奨励賞」 第8回 亀井広忠
若さの特権というべきか、世阿弥の言う、時分の花の最盛期に亀井広忠はある。その瞬間を切り取った、このCDはお勧めだ。能楽のファンに止まらず、邦楽を虚心で聞いて欲しい。
ただ、同時に、電子的には音と音の間は沈黙を作り出すことが不可能ではなくなった今、かつての同じビクターが制作した、能楽囃子大系の正続を全面復刻してもらえないか。あのLPの中で裂帛の気を示した老大家の面々の演奏をもう一度、聞いてみたくなった。このCDと聞き比べたら……。広忠の良さと幼さがもっとはっきりすることだろう。一番端的にそれを思ったのは、道成寺の宝生九郎と清水然知の逸話ではないが、少なくとも身近な音源では観世寿夫と安福建雄の録音にはそれがある。そういうプラスアルファがこれからの年輪ではぐくまれるものだろうが。それにしてもこの清新の気を高く評価する。
そして大鼓のみならず、実は笛の六郎兵衛、幸広が熱演。惜しむらくは、森田流の弘之の共演も聞いてみたかった。序ノ舞とかで。
腰痛ガイドブック 根拠に基づく治療戦略(CD付)
私は看護師をしていました。就職した当初はしょっちゅう「ぎっくり腰」になり、業務に支障をきたして周りに迷惑をかけ、先輩や上司からよく苦言を呈され、毎日が苦痛でした。
整形外科を受診しても「原因はわからない。コルセットをつけて様子をみて」とか「太りすぎ」と言われ、努力していったんは良くなってもまたぶり返すということの繰り返し。
鎮痛剤も何もかも処方された薬は効果がなく、半ば絶望していたときに知人から『サーノ博士のヒーリング・バックペイン』を勧められました。
看護師という職業柄からか、自身の経験からか、長谷川先生の考え方には共感できるところがたくさんあり、その後も一連の著書や訳書はすべて拝読させていただいています。お陰さまで私の腰痛は嘘のように消えてしまいました。
長谷川先生の著書では特に『サーノ博士のヒーリング・バックペイン』と『腰痛は<怒り>である』が名著だと思っていましたが、本書はさらに進化した最新の腰痛情報を提供しているという点で、とても良くまとまっていると感じます。
読みやすさもさることながら、豊富な図表、426件におよぶ参考文献、「攻殻機動隊」の草薙素子役で有名な田中敦子さんのナレーション、そのナレーションを際立たせる美しいBGM、どれをとっても5つ星です。
NHKスペシャル「病の起源」について触れられていますが、つい最近もNHK「きょうの健康」で腰痛の新しい常識について放送していました。各国のメディアキャンペーンで証明されているように、こうして国民の意識が変わっていけば絶対に腰痛患者が減るのになぁと思います。
腰痛の治療には、ゴッドハンドもスーパードクターも、お金をかける必要ありません。ただ私たちの意識改革が必要なだけなんです。それが世界の常識となっている事実に早く気づくべきではないでしょうか(特に私たち医療従事者は)。
ただ、あえて言わせていただければ、個人的にはもっともっと詳しい情報が欲しいです。医療従事者にも一般の読者にも十分なメッセージは伝わるでしょうけど、小ぢんまりしてしいる感が否めません。もっと突っ込んだ長谷川先生の本音の部分を知りたいです。