マンガはなぜ面白いのか―その表現と文法 (NHKライブラリー (66))
マンガ・コラムニストのマンガ表現/文法論。
オノマトペ(擬音、擬態語)、キャラクターの感情表現、フキ出しなど、マンガを構成する要素への考察。さらに、さまざまな種類(大、小、縦長、横長)のコマの連続によってストーリーにリズム(緊張と解放)を持たせる方法や、コマを重ねることによる多層的な時間表現の解読のあたりはとくに新鮮でした。
「言われてみれば確かに」という箇所を言葉にできる人はそんなにはいない。最初は普通にファンとして(入り込んで)読み、その後評論家としてクールに読む、この2つの読み方を行ったり来たりできることが重要だろう。
マンガ学への挑戦―進化する批評地図 NTT出版ライブラリーレゾナント003
マンガ批評はここまできた。
その到達点とこれまでの批評史、展望とさらなる問題提起が、手際良くかつ必要十分にまとめられている一冊。
現在このような本を書くのに、夏目房之介以上にふさわしいひとはいないだろう。氏が批評を進めていく上での、最先端を行きながらも素朴さを忘れない粘り強い姿勢、安易な理論化に対し注意深く距離を置こうとする誠実さには感服する。そしてなにより、行間(彼の表現を借りて「間白」と言おうか)からは、マンガに対する愛情がありありと伝わってくる。
本書はマンガ批評における、現時点で最上の教科書と言えよう。
もとより関心を持っているひとはもちろん、これから学ぼうと思っているひとや、これまで関心のなかったひとに多く、ぜひ読んで欲しい。
記述はきわめて平易でわかりやすい。
まるでマンガのようだ。冗談ではなく。
さよならもいわずに (ビームコミックス)
マンガで泣いたのは、あすなひろしの、題名は忘れてしまったが、作品以来だった。
深夜、買っておいたものをペラペラ読み出したところ、一気に引き込まれてしまった。
しばしば目頭が熱くなり、やがてじんわりと涙が滲み出した。
それから、作者が葬式を終え、茫然自失、外の世界が奇妙に歪み出す辺りでは同様に胸が傷んだ。
そして、終盤間近の、いわゆるクライマックスでは作者とともに思わず嗚咽し、
それが中々収まらなかった。
これまで映画や小説ででもこれほど泣いた記憶はない。(荒木経惟のとある写真集も泣けたが。)
長い時間を伴した最愛の人を失うことの絶望感や悲壮感がどれほどのものか。
マンガなど読まないという人たちにも、是非この作品を読んでもらいたいと思う。
ユリイカ2009年3月号 特集=諸星大二郎
『ユリイカ』初の諸星大二郎特集号。
深遠なる世界を描く諸星先生の特集だけあって
なかなか読み応えのある内容です。
幻の初期作品『硬貨を入れてからボタンを押して下さい』が秀逸です。
手描きの迫力に満ちた描線のこの作品は
今の時代でも充分通用する力作です(ちなみに身近な諸星ファン数名に
読ませたところ、一様に「さすが・・!」という反応が帰ってきました)。
またインタビューも「もうちょっとつっこんで欲しい・・」という不満は残るとはいえ、
先生の創作の舞台裏、デビュー当時のお話など、ファンには嬉しい内容です。
その他『諸星大二郎 西遊妖猿伝の世界』という幻のムックの編集にあたった
竹熊健太郎さんの述懐(手塚先生、星野之宣先生との鼎談の逸話は面白い!)や
厳谷國士さんの『諸星大二郎の反ユートピア』、石岡良治さんの『マッドメン』解題、
高橋明彦さんの『諸星大二郎の太極』などが強く印象に残りました。
『感情のある風景』を取り上げてくれた春日武彦さんにも感謝です。
表紙は悟空と羅刹女ですが、これも魅力的で(羅刹女のマントの紅色が綺麗!)
装丁のセンスの良さが光っています。
永年のファンなら、今までの作品を振り返ってじっくりと楽しむことができるでしょうし、
若い読者にとっては、作品解題を通じて諸星ワールドを俯瞰できる格好の入門書だと思います。