雁の寺・越前竹人形 (新潮文庫)
3回読みました。 主人公玉枝が喜助に対して注ぐ哀しいまでにひたむきな愛情〔恋情〕に本来の日本女性の姿を見た思いがしました。また、最後は哀れな結末で終わるのですが、その玉枝に「頑張れよ、負けるなよ」という作者の声が作品全体に響いているような気がします。
ブンナよ、木からおりてこい (新潮文庫)
中学受験にでそうな名作探しで、水上勉氏の「ブンナよ、木からおりてこい」をチェックしました。これを入試に素材文で出すかと言われたら、多分出さないと思います。表現がやや冗長で、同じテーマが繰り返しでてきます。設問が作りにくい文章です。もしかしたら、環境問題つながりで食物連鎖という言葉を引き出すために使うかもしれません。その場合には理科で出題される可能性がありますね。
でも、とてもいい作品です。1987年にビデオになっているようです。いいこと、悪いこと、弱者への思いやり、食べることへの謙虚さ、そういうことを教えたいのなら、この本を音読してあげるといいと思います。アニメブックもあるのですが、これもビデオも入手難です。残念ですが。
文体は語りに向いています。音読してあげるなら小学校低学年から。自分で読むなら中学年からかなと思いました。
飢餓海峡 [DVD]
今はなき、青函連絡船。
十年前の青森と函館を結ぶ連絡船の難破事故から、物語が始まる。
強盗殺人事件を追う函館署のベテラン刑事役の、故伴淳三郎が最高の演技を見せた作品。喜劇役者として有名だが、この作品ではシリアスに重厚に演じた。彼の補佐をする若い刑事が高倉健。
そして重要な鍵を握る男が、三国連太郎。この映画も三国の代表作でもある。上背が大きく、どこか得体のしれない、暗い影を背負った野卑な男の雰囲気がよくでていた。
彼を慕った女は、左幸子。彼女の演技も幸せ薄く、人を信じて疑わない純朴さと哀しみがにじみ出ていた。
戦後の混沌とした時代、貧困な生活からなんとか這い上がろうとした、男と女の悲劇でもある。
原作は水上勉。
初めて見たのは、もう数十年も前になるが、何度観ても「名作」だと思う。
櫻守 (新潮文庫)
染井吉野ではない桜に、非常に思いが深まった本。
文中にでてくる桜の種類を現実に目にしてみると、
気品ある美しさに、自然といとおしさ溢れてきました。
この本を読んで以来、春の季節は、好い桜を探したくなります。
そして出逢えた時の喜びは、忘れられない。
日本の好い桜がもたらす豊かさの、おすそわけだと思っています。
春は いとおしい桜をどうぞ。
満洲の光と影 (コレクション 戦争×文学)
戦争は植民地満洲から始まった。傀儡国家として葬り去るのも自由である。ただリアリティーのある文学作品として後世に遺すことは必要なこと思われる。ここに明治生まれの里見惇、徳永直、大正生まれの清岡卓行、宮尾登美子、昭和生まれの三木卓、村上春樹ほか、満洲体験のある著名な作家たちの満洲を描いた短編が収載されていて、読み応えがある。700頁に及ぶ本書は、じっくりと読むに堪える力作集である。(個人的に言えば、私の父は満洲開拓団長として彼の地に客死しているので、本書を哀憐深く読み込んでいる)