Sings
チェット・ベーカーはトランペッターとしても人気があるが、ヴォーカリストとしても、たとえば「男性ヴォーカル・ベスト10」を選ぶとまちがいなくこの1956年録音の1枚が入る。ピアノは名手でチェットの友人のラス・フリーマン。チェットの十八番のマイ・ファニーバレンタインを聴いて、ある女性は「セクシーで、鳥肌が立つ」とおっしゃる。勝負下着なるものがあるそうだが、このCDを聴かせてくどく悪い奴が僕のまわりに横行している?恋人へのプレゼントにもおすすめ。もちろん一生モノの愛聴盤になること、まちがいない。これを聴いてセクシーだと思わなかったら、悪いことは言わない。月にでも移住することだ。(松本敏之)
終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて
「…あまりにも長年、麻薬漬けのジャンキーだったために、魂の抜け殻になっていたのね。かろうじて彼にも魂が残っていると感じたのは、音楽を演奏するときだけだった。そこには、はっきりとした二面性があったわ。素顔の彼は、まるで悪魔の化身のように冷酷だった。その彼のどこから、あんな美しい音楽が出てくるのか、理解に苦しんだほどよ」
レズリー・ミッチェルの言葉
チェット・ベイカーというジャズトランペッターの存在など、まったく知らなかった。彼の生涯を追ったこの本からは、チェット・ベイカーは、ろくでもないジャンキーとしか思えない。そしてその印象は決して間違いではないと思う。
この本を読んだ後、彼の演奏している映像をネットで探して見た。My Funny Valentineをプレイする映像があった。たいした音楽好きではないし、ジャズなど門外漢だ。だが正直、いいなと感じた。たぶん70年代か80年代の映像なのだろうが、それほどの年齢ではないはずなのに異様に老けて見える姿(おそらくドラッグの影響だろう)で、椅子に掛け、うつむき加減にマイクに口をくっつけ、うたう歌。やはりうつむいてトランペットを吹くようす。既にろくでなしだと印象付けられているにもかかわらず、いいなあとすなおに思った。音楽と人間性は別かもしれないが、こんなにも狡く、うそつきで、ドラッグの引き起こす多くの醜聞にまみれた人間のプレイを、いいと感じるなんて意外だった。
この本を読む前に、ぜひ彼の音楽を聞いてみて欲しい。
美と破局 (辺見庸コレクション 3)
主として自らの死と死に様がテーマの17編の詩は書下ろしで、大病を患った辺見さんが自著で述べて来たように死の接近(向う側とこちら側から)を内包する者にしか描けない焦燥感や倦怠感や苦悩を感じました。
癌で片手からやがて全身の機能を失った父は一言もその恐怖を家族に吐露せず、逆に家族のことを想いながら64歳で他界しましたが、この詩篇を読み父の心中が如何なるものだったか慮りました。
書下ろし以外の8割は他著で既読でしたが、随所に見られる時代の本質を見抜いていた漱石や思想家達の言葉の引用と豊富な語彙を用いて深く沈思し、社会・政治・マスコミ・大衆に対して語った言葉にはやはり他の著者にない重みと深さがありました。
ですが、世界恐慌の今という時代にあっては過去のコレクションが主体の本書より先に辺見さんの近著を読まれる事をお薦めします。
坂道のアポロン オリジナル・サウンドトラック
最近アニメ「坂道のアポロン」を知って、サウンドトラックを視聴、購入してみようとされている方は少し注意が必要です。
私も最初は混同したのですが、「坂道のアポロン」には2つのサウンドトラックが存在します。
この商品は2009年9月16日に「マンガ版」のOSTとして発売されたもので、全12曲。
「アニメ版」のOSTは2012年4月25日に発売され、プロデュースは菅野よう子氏、全24曲、値段は3,059円となっています。
作品を好きになってしまっているのなら、きっと両方を聴いてみたくなるとは思うのですが、内容が違いますのでお間違えのない様に。
アニメ版はもちろんAmazonでも取り扱っています。