IT時代の震災と核被害 (インプレス選書)
3.11の震災時に、ITは何ができたのか。そして今後の復興において、ITは何ができるのか。
本書の前半では、ヤフー、ツイッター、アマゾン、Ustream、ニコニコ動画などのIT企業が震災の際にどう動いたのかが克明に語られている。
後半では、宮台真司、津田大介、飯田哲也、東浩紀、萱野稔人、神保哲夫、荻上チキなどの面々が、日本の今後についてITを絡めつつ語っている。
前半は、東日本大震災のその瞬間に、IT企業の担当者たちがどう動いたのか、克明に語られているドキュメンタリーとなっている。
グーグルのパーソンファインダーを始めとして、現場の人たちがどのような想いで行動を起こし、いかに判断や決断したのかがよく伝わってくる。
ITが社会に果たした役割と、今後の課題がよく分かる内容となっている。
後半の内容は、各々が別の場所でも語っていることや、ITにあまり関係のない内容もあり、確かにこれからの日本の復興において大事なことが語られているのではあるが、本書に含めるのが妥当かどうかは疑問が残るものもある。
しかし実際問題として、宮台真司や東浩紀など、普段から影響力の大きい人が、震災時にTwitterを通して社会へ与えた影響は大きかった。
今後の社会設計にITは不可欠であり、津田大介など、IT側の方々から社会への提言は多くなされるようになってきた。
IT側からの社会へのアプローチが大きくなってきた一方で、人文科学系の学問からITへのアプローチはまだまだ足りないように思える。
これからの社会学者や思想家、哲学者は、Twitterなどのアプリケーション以外においてもITに詳しくならなければ、社会への提言は行えないだろう。
ヤフーやアマゾンといったIT企業がどういうサービスを提供し、それが社会の中の人々にどういう影響を与えているか、技術的な視点も含めて把握できている人でなければ、将来的な社会設計は難しいであろう。
今こそ、人文科学系の学問はITと融合していく必要性があることを、本書は示唆している。
惜しむらくは、価格が高い点か。
もう少し原稿を絞れば、安くできただろう。
新しい時代を拓くための本としては、価格を抑えて普及を優先すべきだったかもしれない。
しかし、日本の将来のためのITと社会の橋渡し役としては、とても有意義な一冊である。