テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX II (ユリシーズの瞳/こうのとり、たちずさんで/シテール島の船出)
このIV集をもって、全集も完結。 しかし、アンゲロプロスはまだ現役の監督であり、これからも作品を発表しつづけてくれることを我々は待ち望んでいる。
IV集では、「永遠と一日」を収録。 全集発売前には、唯一国内でDVDが入手できる作品だっただけに、ファンは既に入手済みの人も多いことだろう(私もそのひとりではあるのだが)。 それであっても、やはりこのIV集は入手してしまうだろう。 全集を全て所有するというコレクター根性もあるにはあるのだが、やはり未見である「放送」「再現」を是非観てみたいと思う。
また、アンゲロプロスの重層的な表現世界への理解を深めるためにも、監督自身へのインタビュー「Theo on Theo」も興味深い。
氷山の南
乾燥した砂漠に氷山を運んで溶けだした水で灌漑を行うという壮大な計画。そのパイロットプロジェクトとして氷山を調査し、特定するための船に密航したアイヌの血を引く少年。しかし、そのプロジェクトを阻もうとするアイシストと呼ばれる宗教団体があり、無人飛行機を使った妨害活動があり、内部に密通者がいるとわかり、と近未来科学冒険小説ですね。
ところが、密航前に知り合った同年代のアボリジニの画家から「来い」と欠かれた手紙を受け取り、少年はアボリジニの地へ行き、画家と旅をする。このあたりから小説は近代科学に見切りを付けて精神世界に傾斜して行く。アイヌ、アボリジニ、アイシスト、これらがキーワード。ただ氷山でのイニシエーションは少し唐突で、その時見た夢がシンクロしてという辺りでちょっとついていけない感じになりました。最後には文明批判らしいオチが付き「やっぱりね」という感じ。池澤氏ならもう少し、上手いストーリー展開で書けなかったかなという印象です。
マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)
初見は確か箱入りの単行本だったが、今回新古本屋で文庫版を見つけて久しぶりに再読。
巻末の菅野昭正の周到な解説の通り、これは「柄の大きい」様々な要素がうまく纏め上げられた「領域のひろい」現代文学である。
理系出身の小説家らしく、航空力学の関わる細部などがやけに感心(少々は辟易)させられたが、クライマックスのひとつと言えるメルチョール島の祭りの場面や、大巫女との交合のシーンは私見で言えば「古い」と感じられた。まあそれは描写の問題であり、好き好きの問題もあろう。しかし、文体とナラティヴの転換は器用とは思うものの、菅野が褒めるほどのモノとは今回は思えなかった。
それでも、である。これだけのお話をそれほど退屈させずに読ませる力は認めなければなるまい。
リアリティに関して言うと、疑わしいところも。日本のカップラーメンを輸入して儲けるというところなどその際たるものである。貨幣価値の問題があろうがと突っ込みたくなる(先行レビュアーの1人が指摘している通り)。
国家論としてはどうか? 3島を精神的に統べるメルチョール島の構図ありきがそのまま最後まで引っ張って行く(菅野によれば、それが作品を「賦活」する)が、どうにもこのテイストは昔たくさん読んだラテンアメリカ文学を思い出させる。現代の時間と太古が眠る永遠の時間の交錯とかいうやつだ。これはどうなのか。そもそもこれが国家論になっているとは思えないのであるが・・・・。
テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX I (旅芸人の記録/狩人/1936年の日々)
今日届きました。3本中まだ「蜂の旅人」しか見ていません。
作品の理解を深める為、私は付属の冊子にあるストーリーを、先を読まないようにしながら、
シーンごとに解釈しつつ見ました。
冒頭から長回しによる秀逸な映像美を見せつけられ、主人公のスピロスを憂い、
所々少女の奔放さに呆れ、苛つきながらも、しかしながら最期まで一瞬も目を離す事なく見終えました。
見終えた後、何といえばいいか分からず小一時間放心します。
テオ・アンゲロプロスの作品はどれも見てもそうなってしまいます。しかしそれが癖にもなっしまっているのです。
原子力 その隠蔽された真実 人の手に負えない核エネルギーの70年史
前書きから。
『事故の理由を問うのは、なぜ地震と津波でこれほど広大にして長期にわたる被害を出すような施設があそこにあったか、その点を問うことと同じである。そこには長い過去がある。我々はこの惨憺たる結果を生むに至った原因を一番最初までさかのぼってみなくてはならない。
話の始まりはヒロシマとナガサキで暮らしていた人びとの上に落とされた原爆である。核エネルギーという新しい技術の開発にかかわった科学者と技術者は、自分たちが作ってしまったものの威力におびえた。戦争が終わった段階で全てを無に帰してしまいたいと思ったものもいた。
しかし、一度作ってしまったものを消滅させることはできない。
そう言う時期に「核エネルギーの平和利用」が提案された。関係者は心の内なる罪悪感を手伝って、その実現に力を貸した。一見したところ悪魔と思えた子が天使を連れてきたと知って喜んだ
しかし実際にはこの双子は二枚の仮面をかぶった一つの人格だった。どうやっても切り離せないのだ。天使は実は悪魔だった。そこのところを隠蔽して育ったから、原子力にカンするテクノロジーは秘密の多い、非民主主義的で市場原理にも反する、ひどく不健全な育ち方をした。
自分たちの倫理能力を超える者に手をつけてしまった人間たちの苦悩と敗北のあとを著者とともに辿って欲しい。』
なぜ、内部被曝の被害を政府が無視するのか。明らかな人権侵害が起きているのに国際機関が沈黙し続けるのはなぜか。本当の黒幕はだれなのか。
それを知らない限り、何もわかっていないのと同じこと。この本は、是非読んで欲しい