落花流水 (集英社文庫)
なんともやりきれない感情が先にたった.
手毬という名の,ある女性の7歳から老いてアルツハイマーを発症するまでの人生を描いた物語.
章はきっかり10年ごとに年を経て描かれる.章によって一人称は変わっていくが,主人公が手毬であることに変わりはない.
手毬自身,不条理な幼少時代を過ごし,ようやく結婚を経て“家庭”という安定を手に入れるも,37歳にしてその家族を捨て,かつての幼馴染と駆け落ちしてしまう.
実の母親に愛された記憶のない手毬なのに,自分の愛する娘にも同じ仕打ちをしてしまう.
田舎で農業をしながら平和に暮らしていたのに,その幼馴染とも離婚し,成り行きで再婚.
再婚相手が死んだ後はホームヘルパーをしながらひとり暮らしてゆくが,アルツハイマーを発症してしまう.
そんな彼女の元に駆けつけたのは,かつて彼女が捨てた娘と,彼女を捨てた母だった.
ちょっと設定に無理があるかな,登場人物の心象風景を描ききれていない箇所もあるかな,と思うには思うが,非常におもしろい小説だと思う.
家族を捨てる,我が子を捨てるという気分も,いやにすっきりと縁を断ち切るあたりもまったく共感はできないが,こういう事態というのは,現代において案外多く起こっていることかもしれないと思わせる.
手毬も,その娘も,捨てられても実の母を憎みきれない,心の葛藤とやるせなさ.
そんな微妙な心の風景は,読めば読むほど切なく沁みる.
人から傷つけられても,人を傷つけても,こうして人は生きていくのだと,人間の悪しき強欲さと,良い意味での強さという矛盾を垣間見た.
子どもの隣り (新潮文庫)
子供ってなんだろう?自分もそうだったのに、やっぱ大人から見ると子供ってわからんっていつのまにかなってる自分がいる。そんな、子供の視点で物を見ることができるこの作品は不思議な魅力を感じた。自分は子供といる機会もあまりないし、当然結婚もしてないし子供もいない。でも、子供のころ自分が大人にたいして抱いていた気持ちってここまで鋭かったのか?と思わせる作品だった。素直に信頼しているつもりでも、やっぱつもりじゃあ子供に簡単に見抜かれてしまう。そんな子供の目の鋭さをちょっと怖くも感じた一冊ですね。あと、灰谷の文章も俺は好きです。わかりやすくて気取ってない、そんな作家ってなかなかいないかも。