叙述トリックということで、それまでの作品世界がコロっと変わる核心部分について。見事に、あっと驚いたし、その後、一瞬、興醒めしたものの、世界が一回転したような展開のおかげで、この作品で最も不幸と思われる女性の一人が、救われることになる。そういう終わり方は、ぼくは悪くないなあと思いました。それと、2013年の映画「凶悪」とテーマが重なっていて、あの映画以前に、こういう作品があったということで、作者に感心してしまったので、みなさんより点数が上になりました。最後に「補遺」という項目があります。そのなかで、「伏線」になった言葉を紹介してくれています。読みながら、これが伏線なんだろうか、という文章に出会うたび、kindleでハイライトをつけていましたので、最後に答え合わせできたような満足感がありました 葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫) 関連情報
読者の予想できないようなラストが工夫されている。そのようなトリックを味わって、楽しめる人には良い作品かもしれない。ただ、人物描写も秀逸な分、感情を移入していくと、このラストは重くて、辛い。 春から夏、やがて冬 (文春文庫) 関連情報
AVチャットに集まった5人がそれぞれ殺人を犯し、残りのメンバーでその謎解きを行うクイズ形式の探偵ゲーム。ゲームが動機ゆえに、殺人事件からは「動機」や「犯人当て」などの要素がそぎ落とされ、純然たるトリックの謎解きのみに焦点が当たる仕組みになっている。ミステリと不可分と思われていたどろどろした人間関係の機微だとか犯人の狂気やらが削ぎ落とされ、その軽さがじつに清清しい。小気味よい。また五人のキャラクターの書き分けも秀逸で、それぞれ一人称や口調に特徴があり、五人の井戸端会議を読んでいてもいっさいの混乱がない。それぞれが犯す殺人事件にも、それぞれのキャラクターの特性個性が活かされ、舌を巻く。一連のトリック自体は、さほど目新しいものを感じなかった。内容も悪趣味きわまるものなのだが、殺人に対するかつて類を見ないドライなスタンス、それにチャットでの五人のやりとりが非常にユーモラスで、不思議と嫌悪感を感じないのがすごいところ。一方で、インターネットというワンクッションを介することで、殺人という異常行動に対する感覚が麻痺してしまう不気味さが現代的で非常に考えさせられる。キッズの人は純粋に楽しんで読めるだろうし、マニアの人はそこかしこに散りばめられた本格古典のパロディや引用にニヤリと笑える一作です。 密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫) 関連情報