マイケル・ポーターの競争戦略論は、ビジネスマンであれば誰でも知っているかもしれない。「ファイブ・フォース」、「バリューチェーン」、「トレード・オフ」・・・。しかし、学者やコンサルの本を通じて知った人が多く、彼の著書『競争の戦略』、『競争優位の戦略』を読んだことがある人は少ないのではないだろうか。本書も類書と同様、元コンサルによる解説本である。もっとも、著者は、ポーターが主導するハーバード・ビジネススクールの研究所のメンバー。ゆえ、よりポーターの意向が反映されている本といえる。これが類書との違いである。一読したが、たしかに内容自体に目新しさはない。しかし、非常に簡潔かつ網羅的に纏まっている。ポーターの競争戦略、SCP理論といえば、製品、サービス市場の構造、ポジショニングの重要性を提示した。これに対して、バーニーの競争戦略、RBV理論は、経営資源こそが競争優位の源泉と主張した。もっとも、RBV理論は、研究の世界では影響力が強いものの、フレームワーク化は進んでない。これをフレームワーク化したのは、実はポーター。「アクティビティ・システム」という理論であるが、これも第6章に書かれている。楠木建先生の「ストーリーとしての競争戦略」もポーターの影響を多分に受けていることも分かる。ポーター=「ファイブ・フォース」、「バリューチェーン」、「トレード・オフ」と思っている人は是非確認して欲しい。また、本書には、筆者からポーターへのインタビューも掲載されている。これが面白い。特に、資本市場と戦略との関係。昨今、わが国もコーポレート・ガバナンスの議論が盛んであり、ROEが注目されている。しかし、ROEは結局、利益率を上げなければ上がらない。利益率を上げるためには、戦略が必要。これからの時代、さらに求められる理論ではないだろうか。ポーターの競争戦略論の解説本として現時点でもっともお薦めの一冊。 〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略 関連情報
世界中でベストセラーになった「ヤバい経済学」の著者らの新刊である。「経済学」ではアメリカの凶悪犯罪の減少の原因は、銃規制の強化ではなくて人工妊娠中絶の合法化であったことを証明してみせた。いつの時代でも望まれない子供は犯罪に走りやすい。不幸な子供の出生を抑えれば犯罪は減る。納得である。本書のタイトルは「Think Like a Freak」。つまりフリーク(変人、常識にとらわれない人)のように考える。常識や先入観を捨てバイアスをゼロにして考えましょう、と著者たちは説いている。冒頭にサッカ―のペナルティ・キックの話が出てくる。ゴールのどこをめがけて蹴ればいいのか。データでは一番成功確率が高いのは真ん中だが、ほとんどの選手は両サイドを狙って蹴る。それは失敗したときの「見っともなさ」を嫌うからだと言う。つまり、選手の虚栄心がバイアスとなって成功確率の高いシュートを選ぶのを妨げているのである。次に紹介されるのはハンバーガー早食い競争で何年も連続優勝に輝いた日本人コバヤシの話である。彼がこれまでの食べ方を疑って、最も効率的でスピードの上がるハンバーガーの食べ方を実験を繰り返して会得していくプロセスは感動的ですらあった。一方で、正しいはずの施策が逆効果になった例が紹介されている。たとえば、インドでコブラが増えたのでコブラの皮を持ってきた人に報奨金を出したところ、報奨金目当てにコブラを養殖する人まで現れてかえってコブラが増えてしまった、とか。要するに常識にとらわれないで「フリーク」のように、何でもバイアスをゼロにして考えることで隠れていた核心が見えてくる。問題を正しく捉えて、原因を突き止め、問題を取り除く、課題を解決する。そのためにはどうすればいいのか、著者は様々な例をあげてその手法について語っている。いずれも身につけたい手法ばかりである。一流の経済学者と新聞記者の合作である。そのためか、わかりやすい事例を次々に紹介し、軽妙な文体で、やさしく語っている。本書はビジネス書に分類されるはずだが、文章は極めて読みやすい。しかし、読了して気になったのである。内容の深さ、重要さに比べて文章が軽すぎるのではないか。そのためにすいすい読めてしまい、読みながら疑問や反論がまったく沸いてこないのだ。胸に引っかかるものがない。「読んで面白かった」で終わてしまい実践に結び付かない可能性が高いのではと危惧する。したがって、設問を並べるなどして、読者にもっと考えさせたり、読むのに時間をかけさせたりすることで、本書の趣旨がしっかり読者に浸透するのではないか。続編として「ゼロベースで考えるスキル」を身につけるエクササイズ本を要望したい。 0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる 関連情報
やはりメキシコをどうするか、カリブ海を抑えること、が大切と説く。そりゃそうだ。東アジアはどうしても手薄になるがそれでいい、やりすぎるとローマの最後のようになる、と説く。 地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図 関連情報