本屋に置いてあった試し読みの本を見て、最初は絵の繊細さに驚きました。帯を見ると「ルイ16世の首を刎ねた死刑執行人」と書いてある。死刑執行人ってどんな人だ?実在の人を題材にした漫画?と、なんとな〜く軽い気持ちで1巻を購入。読み終わる頃には、なんて凄い本を買ったんだ…と思いました。それと同時に2巻を楽しみにしている自分がいました。第1巻では主人公シャルルが死刑執行人になることへの苦悩やそれを取り巻く家族、そして実際に死刑執行人へとなる姿が描かれています。作者の表現力はかなり高いです。「シャルルは死刑執行人としての道を歩むこととなるが、その先には苦悩が待ち受けていた」文字で書けば一瞬の出来事ですが、この本で読むとまるでドラマを見ているかのように感じられます。この漫画には効果音がありません。静かな場面でも「シーン・・・」なんて書かれませんし、剣がぶつかる「キーン」なんて音も書かれていません。それでも家族の会話の際に漂う恐ろしさ、火祭りでの華やかさ、シャルルの初めての処刑でのシーンなど、その状況がうまく表現されています。「読む」のではなく「見る」漫画だと思います。「見る」漫画でありながらも、ただ絵が綺麗なだけの漫画では決してありません。是非とも多くの人に知ってもらいたい、目を通してほしいと思う漫画です。ですが内容に処刑や拷問など残虐なシーンがあり、読める人と読めない人とはっきりわかれると思います。集英社マンガネットでは第1話の試し読みができるので、興味のある方は読めるかどうか一度確認してみて下さい。 イノサン 1 (ヤングジャンプコミックス) 関連情報
緻密で美しい作画、比喩を駆使した華麗な心情描写、どれも変わらずとても素敵なのですが、少し前から薄々引っ掛かっていた事がとうとう明らかになりました。…なんだか少し寂しいです。相変わらず素敵な漫画なのですが 。説明すると、例えばシャルルが結婚相手を選んだ時の感情だとか、子供が産まれたときの心情の変化だとか、彼のターニングポイントとなっただろう時の描写がまったくなくて、突然物わかりのいい大人の男になっており、ちょっと引っ掛かっていたのです。(少年から大人への変遷って、重要で、読んでいても面白いところだと思うので楽しみにしていたのです。)物語の、そして作者の重点はマリーに移ってしまったのですね。マリーもおもしろい女の子ですが、我が儘な一読者としてはもう少しシャルルの物語を読みたかったな、と。同時に、処刑人の人生ではなく、革命を表から描くのならば、マリーを主人公に据えた方がいいとも思います。(処刑人の人生を描くことによって裏から革命期を覗いていた読み手の視点が、はっきりと表に回りました。よってグロ描写も減りました。ちょっと残念。)しかしウィキペディアによると、ギロチンの発明やデュバリー夫人の最後だとか、まだまだシャルルの出番が多くありそうなので、これからも楽しみにはしています。 イノサン 9 (ヤングジャンプコミックス) 関連情報