視覚的な効果を多用した、独特な表現手法が話題だったので、まずそうした視点から、先入観を持って読んでしまいましたが、それでもこの作品は、手法が内容を振り回したりはしていない。複雑に入り組んだ世界を、しっかりと構成をもって描き分けており、そのための手法として、視覚効果が内容を支えていると言えます。紙面上で書体を変えたり、文字級数を変えたりする作風だけなら、けっこう以前からあったものですが、それらのほとんどは、単純に感情表現の手段として使われることが、多かったと思います。だけどこの作品では、もう一歩踏み込んだ使われ方をしている。二つの時代の二つの別々の悲劇に対して、繋がる人間の存在感が、共通する不言語をもつことで、言葉を超えて表現されている。読んでいるうちに思い出したのは、リサ・ランドール著になる、「ワープする宇宙」に出てくる、パステージの考え方で、同じ「ここ」に在りながら、同時に存在する「別世界」の認識です。リサの場合は、物理学なのでスケールの違いによる同時別世界ですが、ジョナサンはそれを文学的表現として、具体的に描いて見せている。例えば主人公オスカーのママは、常にオスカーを見守り続けており、オスカーがママに内緒で行動していることも、ママは全部知っている。しかしそれにも限界があって、ママはその限界を知った上で、オスカーの世界を受け入れ、邪魔しないようにケアを続けている。同じようにお婆ちゃんはお婆ちゃんで、お爺ちゃんはお爺ちゃんで、ドアマンはドアマンで、自分の流儀でオスカーの世界を受け入れている。なるほどママもお爺ちゃんもお婆ちゃんも、実は同じように、それぞれの哀しみや触れられたくない世界があり、交錯しているから、それでもオスカーが大切だと感じているから、受け入れるしかない。自分に悲しみがあるから、ありのまま受け入れてもらう必要があるから、幼いオスカーを守るには、まず全部受け入れようと決心している。その決心をどう表現するかにおいて、愛を持ち出すしかないのですが、愛はまたあまりにも様々な姿をもって、現実に交錯しているのです。時代を超えて交錯する、それぞれのパステージにある悲しみや愛が、オスカーの家系において、常に「それは何か?」問われ続けてもおり、この問い掛けが、祖父の失語や、父とオスカーの人格を形成している。こうした繊細な感覚を持ったオスカーが、7歳にして突然父を失い、しかも尋常ではない死の直前に受け取った、留守電のメッセージによって、そのときオスカーが電話に出られるのに、でなかったことによって、彼は大きなトラウマを背負って、この一件を解決したいのです。偶然見つけた一つの鍵の、鍵穴を探すことで自分を取り戻そうとし、ニューヨークの町中で危ない冒険を繰り返しますが、結末はあっけない。まるであっけなさの空白を埋めるために、父の墓を掘り返すのですが、墓の中はカラッポで、お爺ちゃんがそこに持ってきた手紙を入れて閉じる。歴史上に起きたいくつもの悲劇に対して、批判や検証をするのではなく、その時代に巻き込まれた男や女が、どのように生きたかを描くことで、ひたすら人間を見詰めたのが、この小説の魅力だと思います。 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 関連情報
「めぐりあう時間たち」以来、私はこのスティーブン・ダルドリー監督の俳優の使い方、人の表情の捉え方、シーンの編集と展開、音楽の使い方が大好きで、特にこの作品は購入したDVDで繰り返し見返している。日本語吹替えで英語字幕にするのが結構気に入っているのは、英語の勉強にもなるからであるが、吹替え版の翻訳は日本語字幕の翻訳よりずっと細かくてニュアンスが出ているし、日本人声優たちもとても頑張っているから。 確かに9.11の悲劇を題材にしてはいるが、むしろ少年の成長のための旅を主題にしているからその意味で誰にでも受け入れられるテーマであると思う。こういう映画はやはり自宅の自分の部屋でじっくり見たい、つまり購入するべき作品の一つであると思う。 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [DVD] 関連情報
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)
ふざけたタイトルだと思いながらも、「いったいどんな内容なのだろう?」と気になり、予備知識ゼロの状態で観ました。父親の死から立ち直っていく少年の話だが、その過程と方法がとても知的でユーモラスで、ある意味、「謎解き」をしているようで見入ってしまった。背景にあるのは、とても重く悲しい出来事ではあるが、息子をたくましく育てようとした父親と、深い愛でそれを見守る母親、そして父親の期待に応え、生きる力を自分で見つけ出した少年のすごさに、静かに感動しました。 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い Blu-ray & DVDセット(初回限定生産) 関連情報
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [Blu-ray]
911と3/11規模は違えど日米両国が体験した惨事は、未だに多くの人々を悲しませています。日本人が過酷な自然環境の中、数多くの天災に見舞われ、そのたびに多くの人が亡くなるという歴史を繰り返して来たのに比べ、アメリカの911に関しては真珠湾攻撃以来の米国への直接攻撃であり、また事実上近代では初めての米本土攻撃という違いがありますが、どちらも多くの人が家族を失った事には変わり有りません。そしてこの映画の様に多くの子供達が親を亡くしたという事も3/11を連想させられます。ストーリーは淡々と進みますが、4Kワークフローと思われる高画質がそのストーリーをよりリアルに感じさせてくれます。是非、部屋を暗くして映画館のつもりで観て下さい。 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [Blu-ray] 関連情報
父親はどこへ消えたか -映画で語る現代心理分析- (シエスタ)
人生にはいろんなことが起こります。そんなとある事件後、父親になる自信を失い。子供にどう接したらいいのかわからなくなっていました。そこで、この本に出会い。すぐ購入。内容も読みやすく、一気に読み終えてしまいました。もちろん★5つです。これからの子供達との関わりの中で、失った父性を取り戻すために、努力していこうと決意しました。決していい父親にはなれないかもしれませんが、そうなるよう努力します。 父親はどこへ消えたか -映画で語る現代心理分析- (シエスタ) 関連情報