さまよう刃 (角川文庫)
高校生の一人娘を乱暴された上に殺された父親が、犯人の少年の一人を惨殺し、
もう一人を追ってすべてをすてて復讐に走る。
犯人は未成年だから、つかまったとしても数年で戻ってくるのだ。
父親の視点、警察の視点、犯人達の仲間の視点、復讐に走る父親を助ける女性と
それぞれの心の動きを浮き彫りにしながら、物語は進行してゆく。
東野圭吾は本当に登場人物の心理描写が巧みで感情移入しやすい。
犯人の仲間の小悪党の少年でさえものすごくうまく描かれていて、
同情も覚えつつ憎しみも覚える。
そして復讐する父親については、何とか復讐が遂げられるよう祈りながら読んでしまう。
復讐なんて認められないし、それは殺人でしかないのだが、
それでもお願いだから彼の思いを晴らさせてあげてくれと、
願ってしまうのは私だけではないはずだ。
赤い指 (講談社文庫)
東野作品はほぼ全て読んでいますが今回の作品はラストの真相がわかるまでは大したことはないなぁと思いながら読み進めていました。前作の「X」にくらべれば駄作かな?と思っていました。ところが、ラストの展開!!これには正直やられた!と思わざるを得ませんでした。母親の子供に対する深い愛情が、こんなにも間接的な形で表現できるものなのか!と本当に感心しました。中には現実的でないという方や、ミステリーではないと言う方もいるでしょう。しかし、この作品は私はそんな次元ではなく人として本当に必要なもの・生き方を教えてくれる貴重な小説といえると思います。電車の中でラストを読みましたが、涙をこぼさないよう抑えるのが大変でした・・・
白夜行 [DVD]
ドラマが面白かったのでこちらも観賞。
映画版は作風や構成が野村芳太郎監督の「砂の器」に似ていると思った。
ある質屋の店主の不可解な死亡事件に始まり、真相を追っていくうちに
思いがけない人物の凄惨な過去が浮かび上がってくるという展開。
原作の長さを考えれば、2、3時間の枠におさめたにしては悪くない出来。
堀北真希は、やや幼いのが難だが「泥の中に咲く白い花」という雪穂の形容にふさわしく
なかなか適役だと思う。 秘めた過去があまりに忌まわしいがゆえに、汚れを感じさせない清楚な美貌が
運命の残酷さと雪穂の芯の強さを引き立てていて、こういった所はやはり映像化ならではの魅力。
ドラマとは対照的に暗く静かな作風だが、第三者である刑事の目を通して淡々と語られる事件の真相は
かえって真実の生々しさを浮き彫りにする。
決定的な部分をあえて見せず、抑えた演出で観る側の想像をかきたてる手法は成功していると思う。
ただ全体で不満な点は、雪穂に対して亮司の人物描写が少なすぎる事。
二人が犯人だという決定的な場面を描かないのは「真相は闇の中」的な意図なのだろうが、
成長した二人の絆を感じさせるシーンを1ヶ所でも挿入すればラストの雪穂の言葉にもっと重みが出たはず。
さまよう刃
最後に、“警察が守っているのは市民ではなく、法律の方だ。法律は絶対に正しいというものではない”という内容のくだりがあり、それがズシリと効く。
主人公である父の気持ちがわからない人は居ないだろう。
射撃した警察官は、本当に正しいことをしたことになるのか。正しいことには違いないが、正解なのだろうか。重いテーマだと思う。
傑作だと思う。ドラマ化、映画化されておかしくない。されるべき作品である。