NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫 お 20-1 書き下ろし日本SFコレクション)
2009年発行。気鋭の書評・翻訳・編集家大森望編集長による文庫本型の(いまのところ)年2回刊?の読み切り日本SF雑誌の第一弾。硬軟取りそろえた収録作品はどれも異様に気合いが入っていて,読み手としてはなんだか贅沢な気分。私は超絶の悪夢作家田中哲弥の「隣人」と,ベタなんだけどきゅんとする藤田雅矢「エンゼルフレンチ」,そしてやはり格が違う故伊藤計劃の絶筆「屍の帝国」がお気に入りです。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
■優秀なSF作家が島根に居る。彼の名は飛浩隆。1960年生まれ。近未来SF「夏の虫」で94年の自治労四十周年記念懸賞小説最優秀賞受賞。現在自治労文芸幹事でもある(実は私も四国地連の自治労文芸幹事なので飛氏と面識がある)。氏は、商業誌の世界では80年代にプロ・デビューし『SFマガジン』に中短編を発表してきたが93年の作品を最後に沈黙。書き下ろし作品『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』(早川書房、02)が、いきなり2003年度の日本SF大賞候補作となり関係者の度肝を抜いた。
■今回紹介する『象(かたど)られた力』(ハヤカワ文庫)は中短編集。星を滅ぼすほどの力を秘めた文様・図像の謎を追う表題作、宇宙を折りたたむことで超光速を実現したため邪悪な空間世界を招来させてしまう「呪界のほとり」等、4編を収録。目くるめく読書体験が味わえる。芳醇な想像力、硬質緻密な文章、斬新なアイディア。極上のSF世界がここにある
サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ
2007年に日本で開かれた国際的なSF大会、Nippon2007の中で開催されたシンポジウム企画「サイエンスとサイエンスフィクションの最前線、そして未来へ!」の講演録が収録されている。
主にロボット研究、AI研究の発表だが、最先端の研究内容に触れられ、興味深い。また、それプラス、そのシンポジウムに参加したSF作家たちの短編小説も収録されている。
収録されている作家は、瀬名秀明、円城塔、飛浩隆、堀晃、山田正紀と新旧、日本を代表するSF作家たちだ。
特に飛浩隆と瀬名秀明の小説はとてもいい。
それを読めただけでも、この本を買った甲斐があった。
人間の想像力とその文学的な表現、それこそがSFの命だ。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
「システム内部にプログラムされ、造られた世界」
という古風な書割のSFではあるが、
細かなディテールまでしっかりと組み、
リアリティある手触りは秀逸。
物語そのものはもちろんのこと、漢語交じりの造語といい、
南欧あたりの避暑地を模写した海岸といい
紡ぎだされるイメージは大変贅沢で美しい。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
設定の支柱にある要素に真新しさはないが、仮想世界が存在する以前の、要するにバックボーンやデティールがしっかりしている。
そしてそれを表現する筆力に驚嘆。非常に単純明快なプロットは、良く言えば基本に忠実、悪く言えば在りがちな本格SF作品。
俺が特にこの作品で注目したい点は、グロテスク且つエロスであり不条理且つ残酷なSF小説だ、というところ。しかしながら、読み終わったあとに残る、この何とも表現し難いほどの清々しさ! 文章の巧みさも相まって五感の全てが刺激される。
さて、ここまで書いて気付いたことがある。
どうやら俺はこの数値海岸に迷い込んでしまったようだ。
おそらく、この『廃園の天使シリーズ』が閉幕するまで、読者の夏休みは終わらないだろう。