フューチャーズ・カミング・フロム・ザ・パスト [DVD]
これを書いている現在、D.C.クーパー(Vo)が復帰したアルバム「ショウ・ミー・ハウ・トゥ・リヴ」が発表され、D.Cを含むラインナップでの本格的な活動が軌道に乗っているロイヤル・ハントだが、かつてビデオ・ソフト(VHS)として発売され、VHSの衰退という時代の流れと共に長らく廃盤になっていた名作「1996」と「パラドックス・ライヴ~クロージング・ザ・チャプター~」がこの度、両作品をパッケージした2枚組DVDとして発売された。特に「1996」の方は、ビデオ・テープが擦り切れる程に見まくった作品だけに、個人的には嬉しい限り。
まず、その「1996」の方は、3rdアルバム「ムーヴィング・ターゲット」に従うツアーより五反田ゆうぽうと簡易保険ホール(東京都)でのライヴを収録した作品で、当時のメンバーはD.C.クーパー(Vo)、アンドレ・アンダーセン(Kye)、ヤコブ・キエール(g)、スティーン・モーゲンセン(b)、ケネス・オルセン(ds)の5名に加え、ツアー・メンバーとしてバック・ヴォーカルの女性2人が参加。後に長尺の大作趣向の楽曲が多くなるロイヤル・ハントだが、まだこの頃は1曲1曲がコンパクトにまとめられた楽曲を中心に発表しており、演奏曲目は初期3枚のアルバムからのベスト・オブ・ベストな選曲。D.C.の完璧過ぎる程の歌唱力、タイトなバンドの演奏など、どれを取っても最高の時期を迎えていたバンドの魅力が充分に凝縮された、伝説的パフォーマンスである。ア・カペラのコーラスより始まり、ドラマティックな展開を見せるラストの「タイム」も感動的。
2枚目「パラドックス・ライヴ~クロージング・ザ・チャプター~」は、1998年にVHSで発売されていた作品で、ロイヤル・ハントとして新たな方向性を打ち出し成功した名盤「パラドックス」発表後に行われたライヴより、赤坂BLITZでの公演を収録。メンバーはドラマーがアラン・ソーレンセンに替っている以外は同じ編成。アルバム・ジャケットをモチーフにデザインされたステージ上で披露される「パラドックス」の楽曲群は、ひとつの世界観と物語を作り出し、「1996」とは異なった厳粛な空気と緊張感があり、観客も息を呑んでステージに見入るといった感じの舞台内容だ。ボーナスとして、バックステージの様子を撮影した映像も最後に観られる。どちらの作品も画面は昔のテレビ・サイズであるし、画質も特別に向上しているとは言えないので、本作を商品という観点で見れば、VHSで発売されていた物をそのままDVDにしましたという事務的な感じが掃えないが、ロイヤル・ハントの歴史の中でも最重要時期と言っても過言では無い時代のパフォーマンスが観られるので、絶対に持っておきたい内容だ。
ザ・ベスト・オヴ・ロイヤル・ワークス1992-2012~20thアニヴァーサリー:スペシャル・エディション
デンマークのヴェテラン・バンド、ロイヤル・ハントのデビュー20周年を記念したベスト盤。本商品は、1000セット限定のBOX仕様タイプで、CDが3枚とDVD1枚がセットになった豪華なヴァージョンだ。他にも「ショウ・ミー・ハウ・トゥ・リヴ」ツアー時の、バックステージ・パスのレプリカや、ロイヤル・ハントの特製記念ペンダントも付いている。
CDは3枚共にSHM-CDが使用されており、まずDISC1には1stアルバム「ランド・オブ・ブロークン・ハーツ」から、4th「パラドックス」までの作品よりセレクトされた楽曲が、DISC2には「フィア」から「ショウ・ミー・ハウ・トゥ・リヴ」までの選抜曲で構成されている(ライヴ盤「1996」からのセレクトは無い)。各アルバムの発表順に収録されている事から、シンガーもヘンリック・ブロックマン、D.C.クーパー、ジョン・ウェスト、マーク・ボールズ、そして再びD.C.クーパーと歴代ヴォーカリストの歌声が、また歴代メンバーのプレイが堪能できる。音源は即発音源が使用されているようだが、高品質なSHM-CDだけに、オーディオの環境が整っている方なら、オリジナルよりは良い音で各楽曲を堪能できるはず。選曲に関しては、ファンの方それぞれに思い入れの深い楽曲も異なるはずであるし、必ずしも自分の思い描くベストな選曲であるとは限らないが、この辺りはアンドレ・アンダーセン(key)やレコード会社の意向で決められた事なので、本作の曲目は尊重したいところだ。
DISC3は、新曲「セイヴ・ミー」や「ワン・バイ・ワン」等のアコースティック・ヴァージョンとして新録されたテイク他を収録したボーナス・ディスク的色合いが強い1枚。[1993-1997]と題されたDVDには、ビデオ・クリップや「パラドックス」ツアー時のライヴ映像を収録。そのタイトル通り、全体を通して見られる映像はヘンリック・ブロックマン在籍時からD.C.クーパー時代のもので、それ以降の時代の映像は特に収録されていない。内容盛り沢山だけに、どうしても値は少々お高くなるが、コンパクトでキャッチーなネオクラシカル・メタルを披露していた初期から、「パラドックス」以降の大作趣向が強くなった時代、メンバー・チェンジを経て更に演奏に磨きが掛った「ペイパー・ブラッド」の頃など、本作を通してロイヤル・ハントの音楽性の変化・進化が手に取るように判るので、入門編としても最適な作品だ。
ショウ・ミー・ハウ・トゥ・リヴ(初回限定盤)(DVD付)
バンド黄金期のボーカルであるDCクーパーが復帰しての11枚目のアルバム。原点回帰と言われているが、近年のドラマティックかつプログレ的でヘヴィな作風を基本として、そこに初期の頃に顕著だったネオクラメロディーを多少増量した感じというのが本当のところ。DCはより深く、渋みのある声を披露しつつも、決めるところではしっかりと超絶ハイトーンを炸裂させており、さすがである。勇壮なイントロで始まり、バンド史上でも屈指のテクニカルソロが聴ける1、バラード調で始まり、前作のようなハードロック調のサビをもつ2、アンドレのキーボード大洪水技が特徴のミドル3、ドラマティックな展開の4、今作のハイライトである哀愁メロディーが炸裂するアップテンポな5、少々冗長な感じはするが、展開の妙を楽しめる大作6、イントロが神で、ラプソディーオブファイアを洗練したかのようなシンフォニック疾走チューン7と、収録曲は7曲と少ないが、捨て曲はなし。個人的には5と7はかなりの名曲だと思う。初期を意識しつつも現在の彼らの良さも保たれた好盤である。