かの子撩乱 (講談社文庫 せ 1-1)
瀬戸内寂聴だからこそ書けたと思う岡本かの子の一生。深い業欲を持った女性である。まわりもさんざんふりまわされる。それなのにいやらしいとも思わないし、怒りが湧いてくるわけでもない。むしろなぜだか心のうちがすっきりするし、このような人生を送れたら悔いも残らないだろうと思えてくる。いろいろと迷惑をかけてもこのひと自身は純粋だったのだろう。ありのままに生きたというより欲のままに生きたという印象は受けるが、こういう女性の生き方にどこか心のどこかで憧れなくはない。岡本一平がかの子が死んだときに男泣きに泣いたというくだりにはこちらも泣けてくる。
家霊 (280円文庫)
岡本かの子について知っていたこと。
まず、岡本太郎の母であること、
夫と愛人、同じ屋根の下で暮らしていたこと。
そして見事な観音経についての随筆。
けれども小説は初めて手にしました。
経済的に豊かで、たくましく世を渡り歩き、
そして惜しげも無く愛情を与えてきた女の視点から描かれた作品群、
4つの短編物語「老妓抄、鮨、家霊、娘」は正に宝玉です。
書かれた年代は1939年、この時代のロマンの香りを楽しむこともできました。
ちくま日本文学全集のように字も大きく、
振り仮名も多いのでとにかく読みやすく
工夫されている様子が伺えます。
装丁も逸品です。
....そしてこの280円という手軽さ。
岡本かの子 (ちくま日本文学)
戦前に書かれたとは思えないほどの新しさである。
短歌などは、サラダ記念日などを書いた女性歌人よりよほど突出している
歌人、詩人である。
小説も短編に切れ味するどく、突然40歳くらいから書き始めたということだが、
天性の才能を感じさせる内容である。
そしてエロティックな印象を行間に漂わせてもいる。
老妓抄 (新潮文庫)
岡本かの子の短編集『老妓抄』は、文学的にはそれほど優秀な作品ではありませんが、女性作家ならではの哀愁や可愛らしさを感じさせてくれる、ある意味名作ともいえる作品群です。なかでも『鮨』は母子の細やかな愛情と、思春期の少女の恋心を、どこにでもある鮨という食材を根幹に物語を展開させて、言葉にならない新鮮さを読者の心にダイレクトに届けてくれるピュアな作品です。もう一遍、『蔦の門』という作品も、心温まる小説です。使用人の老婢と近所の葉茶屋の娘の交流を女主の客観的視線を通じて語る形式をとっていますが、娘が老婢に本音を耳打ちする場面は秀逸です。短編集の最後を締めくくる『食魔』は作品としては破綻していて残念としか言いようがありません。しかし全体的にみますと、技術的には稚拙な部分を抱えている作家であっても、優秀な作品を書きえるのだという記念碑的短編集で、とくに女性の読者にはおすすめしたい本です。