ため息の時間 (新潮文庫)
恋愛小説の短編集なので、暇つぶしのつもりで手に取った。ところが、空き時間に一編ずつ読むどころか、全編一気読みしたくなる様な内容ばかりだった。
どこでもいそうな、それでいてそれぞれ個性を持った男性を登場させ、その視点で9つものストーリーを創り上げるというのは、それまで、そういう小説を読んだことのない私としては目からウロコ状態だった。それが、女性作家のシワザというのだから、尚更だ。
相手を愛しく思うあまり、相手が死んだ後も一緒にいたいという思いを実現させる「僕の愛しい人」などは、恋愛の中にもサスペンスを感じさせ、「分身」にいたっては、自分が造り上げた虚像が、実体化する場面(それが、偶然か必然かは読者に考えさせるところでもあるが)などは、SF小説かとも思わせる。
とにかく、ただの恋愛小説ではないのだ。
孤独で優しい夜 (集英社文庫)
唯川さんの90年代に書かれた本の中で、一番好きです。
読了後がすっきりするので☆
ただし唯川さんがエッセイなどで書かれている恋愛のスタンス、
特に不倫に関する考えがしっかりと根付いていますから、
もしかするとワンパターン?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
でもなんでこの作品を好きかと言うと、恋愛は不安定で「これで十分」という気持ちはいつまでも続かないということ。
当たり前のことかもしれませんが、そんな当たり前のことを静かにはっきりと描かれています。
どんな理由があっても『不倫』は『不倫』
身も蓋もないけれどその通り。
『不倫』こそ『純愛』と耳にすることもあるけれど、
一瞬のキラメキの中にある一時の恋愛を『純愛』と呼んでいいのかしら・・・、思うことがあります。
恋の始まりお互いがお互いを必要として、離れたくないと熱望する期間は長くは続かないのです。
現実はね。
不倫の恋は孤独を強います。
好きであれば好きであるほど。
遊びの不倫なら、そんな気持ちはないでしょうね。
でもそれは不倫は『純愛』という考えとは合わないですよね。
愛れば愛するほど感じる孤独を、この作品で味わってほしいです。
肩ごしの恋人 [DVD]
このところ邦人作家の作品が韓流にアレンジされ,「白い巨塔」では,むしろ本家を超えたのではないかと感じさせるような,スピーディで現代的な演出に圧倒されました。
本作も,唯川恵さんの直木賞受賞作「肩ごしの恋人」が原作で,すでに日本では米倉涼子さんと高岡早紀さんの共演でドラマ化されていますが,これを「アメノナカの青空」の若手女性監督イ・オンヒssiがどのように味付けしてくれるのか,とても楽しみです。
32歳のシングル、ジョンワン(イ・ミヨン)は,最近名前を知られるようになった写真作家です。恋愛に対する幻想はなく、結婚への考えがなくても自由に恋愛を楽しむことができる男性を求めています。
一方10年以上の親友ヒス(イ・テラン)は、20代なんて相手にできないようなセクシーな女性で,望むことは何でもしてくれる「安心保険」のような男性を選んで結婚します。
ところが,遊びと割り切ってクールに会った妻帯者に恋愛感情を感じるようになってしまったら,また,安心保険のような夫が浮気をしたという事実を知ってしまったらどうでしょう,本作は,人生には,思いもよらない事件で軌道を修正しなければならない時があるということをコミカルに描いています。
映画初出演となるイ・テランssiは,当初イメージに合わないのではとのことで出演を断っていましたが、イ・ミヨンssiの推薦もあって承諾,わがままでありながら憎めない女性を見事に演じました。
本作は,韓国では“18歳以上観覧可”という制限付きとなっていますが,どの部分がそれに該当するのか理解できません。普通にコメディだと思うのですが…。
瑠璃でもなく、玻璃でもなく (集英社文庫)
硬質な美しさと、どこか曖昧な柔らかさを合わせもつ
タイトルと表紙絵に惹かれて、
著者の作品を初めて読んでみました。
ドラマをみているような気分で一気に読みました。
それぞれの立場にある男女のリアルさと、
(個人的に友章だけは何を考えているのかよくわからなかった)
小説らしくうまく計算されたハプニングの設定、
ドロドロした絡みのわりには、それぞれの落ち着き場所が
「きれい」にオチて描かれていました。
たしかに、
「不倫」の美月と浮気をした「朔也」がうまくいくなんて許せない、
といわれても仕方ないが、
もし英利子に子どもがタイミングよく授かっていても、
その後子育ての過程であのお姑さんとうまく折り合えたか・・・
それぞれのキャラの描き方が、都合よく単純すぎる気もするけれど、
それだけに意外と深い真実をついているおはなしだとも読める。
人間関係、環境が作り出す悲喜こもごも、タイミングの妙、
こんなにきれいにまとめてしまった結末に、
かえって人生の面白さを味わえたので☆四つ。
テティスの逆鱗
唯川恵の小説は好きでよく読んでいるが本書には恋愛などは出てこない。それなのになぜかすごく引き込まれて一気に読んでしまった。
4人の主人公がどんどん「いってはいけない方向にいっている」という切迫した感じが伝わるのだ。
整形をしたことがない人間にとって整形した感想というのは想像の範囲でしかないが、やはり自分の身体に故意にメスを入れるというのは何らかの影響を与えるのかも知れない。
そして欲しいものを買うかのごとくどんどん自分の身体を変えていった結果、「自分とは一体何者なのであろうか」というアイデンティティの崩壊が起こるのだろう。
きっと世の中には実際に本のような女性(さすがにここまで狂ってはいないだろうが)も多かれ少なかれいるんだろうなと思った。
普通に年を重ねて皺が増えても体重が増えてもそれって幸せなことなんだと確認させられる一冊である。
男性はともかく女性にはおもしろいと思う。