放浪記 [DVD]
近年の舞台で有名な作品ですが、
私個人的には、高峰秀子さんの映画の中でも、すごく好きな映画です。
それは
美しい顔がそこにあるからではありません。
どちらかというと、
隙のある、疲れた表情が多い映画で、その中でも、ご存知のように気丈にがんばる様子を見事に演じているからです。
実は本当に疲れていて、隙ができてしまったのか?と思ってしまうほど、どこにでもある平凡な表情がいたるところに出てくるのです。
だから、この映画の高峰さんがすごく良いのです。
カフェのなかで踊るときの、しぐさ、表情、とてもとても秀逸。
例の、夫たる宝田さんの祝辞のシーンも意外と良いし、付記事項として
伊藤雄之助さんの結構平凡な役柄も面白いです。
私の中では、高峰さんの作品の中ではかなり高い評価をしている映画です。ぜひ。
放浪記 (新潮文庫)
ふしぎな日記だ。
金がない、詩が売れない、腹がすいた、仕事が辛い、捨てた男が恋しい、母も恋しい、いっそ死にたい、さもなければ身売りしてしまおうか。
それらをみな一緒くたに、小気味よいリズムの文章と詩に巻き込んでしまう。
頽廃的なことばかり延々と書き連ねてあるのに、何だか軽妙なのだ。
たぶん、少女時代を過ごした尾道の海のように、根が明るいひとなんだろう。
そして腹の底には、赤いマグマをふつふつとたぎらせている。書きたい読みたい人恋しい。
だから文章が湿っぽくならない。どこか一点がすこんと抜けて、愚痴が愚痴に聞こえない。
成瀬巳喜男 THE MASTERWORKS 1 [DVD]
この映画(「浮雲」のレヴューがこのボックスのために転用されました)の試写を観終わった小津安二郎が、感動のあまり「これで今年のベストワンは決まりだな」とつぶやき、監督の成瀬と主演の高峰に激賞の手紙を送ったのは有名な話。
しかしこの映画のMVPはもう一人の主役の森雅之でしょう。彼の完璧な演技がなければこんな名作にはなっていないと断言します。
その証拠に高峰自身も自伝の中ではっきりそう述べています。そして自分はたくさん賞をもらったのに、森にはなんの賞も与えられずに、無念そうだったと。「あにいもうと」や「女が階段を上がるとき」などの他の成瀬映画でも素晴らしい演技を見せている森雅之は、最近忘れられているのではないでしょうか。この映画を観て「戦後最高の演技者」森雅之を再認識しましょう!
感謝記念30%OFF! 3D 『脳で感じる朗読』
最近はオーディオブックが日本でも流行りだしているが、このCDは単なるオーディオブックではない。脳への効果が期待できる特殊効果音(脳の中を音が動き回っているような3D音源)が、朗読の中に織り込まれている。
活字だけだと淡々とした古典文学も、こうした効果音が入ることでハリウッド映画並みに迫力が増す。文学の新しい楽しみ方を提供してくれている貴重なCDだ。何度も聞いてしまう。とくに『トロッコ』(芥川龍之介)と『よだかの星』(宮沢賢治)がお勧め。
めし [DVD]
「山の音」と同じ上原謙と原節子のコンビ。「山の音」は原節子が上原謙の不倫に抗議するために、自分の意志で妊娠中絶をしちゃうという、ちょっとした衝撃があったが、こちらはいたって平凡な夫婦。
それでもふたりにそれぞれ少しの波風が立ち、波紋が生ずるがその波紋もやがて収束し、元の平凡な生活に戻るという、完膚なきまでの成瀬映画。玉井正夫のキャメラと中古智の美術もスバラシイ(上原と原の夫婦が住む、大阪の長屋の通りはセットですよ!)。
見所はやっぱり原節子。家事にいそしむあまり、額に汗し髪が少し乱れるなんていう彼女の姿は小津作品では絶対に見られない艶かしさ。この二人の演出家による原節子の捕らえ方の相違は、二人の性に対する考え方の相違が微妙に表れているような気がします。邦画ファンの心理学者がいらしたら、その辺を研究してください。
何はともあれ「ガキ向け映画」しか作れない現在の邦画界にウンザリしている私にとって、本作はガキが立ち入ることの不可能な、本質的な意味での「成人映画」です。
嗚呼、昔はこんな映画がいっぱいありましたね。