カラスヤサトシ (アフタヌーンKC (425))
表紙絵にもなっている(虚ろな)笑顔がまぶしい著者を主人公とした「貧ヒマ」系の実録四コマにして、昨今最強レベルの笑いが詰まっています。
月刊アフタヌーン編集部の出す「お題」に応じて、著者が奇癖や情けない思いこみを暴露し続ける、という、お笑いウルトラクイズかよというハードな設定です。
つねにお笑いポジションを要求される関西人として「おもんない」ことを極端に恐れるあまり、オリジナル一人遊び(ライダー消しゴム同士を戦わせて膨大な対戦結果をパソコンでデータ化したり、ぬいぐるみのクマに暗殺を仕掛けたり、酔った勢いで工作したインチキ神のたたりを本気で恐れたりなど)に熱中し過ぎ、あげく周囲からどんどん浮いていく著者の半生が描かれます。
これがどうして面白いマンガになるのかというと、著者キャラが常識人を諦めきれずに変人のキワを右往左往する、その中途半端さにつきるでしょう。これがめっぽうスリリング。
常識人になりきれないハンパさがペーソスを生み、不快な「自己チューの変人自慢」とは一線を画しています。
バカ売れしたら、絵がうまくなっちゃうのかな。推薦する気持ちと反するようだけど、この荒い絵のまま負け犬根性で辛酸なめまくっていてほしい作家さんの一人です。
結婚しないと思ってた オタクがDQNな恋をした! (チャンピオンREDコミックス)
著者の作品はカラスヤサトシから読み続けています。だから今回の作品は衝撃的でした。世間とずれた作者の日常を描く作品しか発表していなかったのに、今回初めて女性との出会いが描かれます。今までカラスヤサトシ等で描かれてきた、作者のゆったりとした絵柄の世界観というか「空気」が完全に覆されます。ガシャポンが好きだったり、必殺仕事人が好きだったり、変わった小物が好きだったりと、そういう物との関わりで日常を描写していた作者に突然女性の存在が入ってきます。おのぼり物語でも作者のゆるい作品世界の中で、父の死という、とてつもない現実が描かれたときも衝撃を受けました。しかし今回は強烈でした。あの見慣れた作者の部屋で女性と過ごしている、ということが作者のファンならあの世界観の中では「特別」なことかわかると思います。作者が飲み会で奥さんとなる女性と初めて出会った時、女性が持っていたバッグを丹念に、鍵の一個一個まで丁寧に描写しています。女性の小物を丹念に描く、これは今までの作者ではあり得なかったことです。よほど印象的だったのでしょう。最後の一コマ、子供にここがおまえの部屋だよと言い聞かせて終わるシーン。今までの読者ならこの部屋を借りるいきさつまで知っています。作者が部屋を借り、長い時を過ごし、そして子供が生まれる。最後のコマをみたとき、一人の人物を撮り続けた長い映画を六年かけて見終わったかのような、何ともいいようのない感動がありました。