ユリイカ2010年10月号 特集=安倍吉俊 『serial experiments lain』『灰羽連盟』『リューシカ・リューシカ』・・・仮想現実の天使たち
「安倍ってこうだよね、こんなところが好き、それを肯定してくれる文章がいくつあるかな」と
お気楽に手に取ってみましたが、とんでもない。実にいろいろな切り口から安倍の魅力、
作品の価値や意味に迫っている。ちょっと見では変なのと思える評論も最後まで読むと
「なる程、そんな読み方、味わい方、受け止め方もあるんだ」と納得できて、楽しめたし、
いくつかの特に挑戦的、冒険的な解読には、とてもわくわくさせられました。
わずかに、本当は安倍作品に衝撃を受けたのでものめり込んだのでもないのに、自分の得意な
何かにこじつけて作り上げた、明確な事実誤認を含む評論もあるように思いましたが、
これも安倍が万人に賞賛されるような特徴の希薄な薄っぺらな作家でなく、尖っている、
読者を選ぶ創造者であることの現れなのかもしれません。
私自身は、この評論群を読んで、次は安倍のどの作品を見ようかも定まったし、もう一度作品を
味わうときの受容の幅も広がった気がするし、たいへん価値ある一冊でした。
serial experiments lain 〈期間限定生産〉 [DVD]
「ナビ?」
・・・・・・人と人とは繋がっている・・・・
「lain」
不思議な空気のある作品
90年半ばの作品であるが、現実世界とWEIRD、今の時代とリンクして
より現実感が増し身近になったネットワーク社会。リアルと非現実。
当時、数年先に迎える2000年を目前とした中でのカオス感と相まって、
映像で魅せる事と時折作中で聴こえる何とも言い難い効果音が耳に残る。
本作はケース一つにDVD3枚が収録され、省スペース、余分な物が無く
チラシの類や帯もなくシンプル、無機質な感じが何処か作品とマッチしている。
1枚4話収録の全13話、本編309分+特典3分、ピクチャーレーベル仕様。
また価格がお手頃なのは嬉しい。未見の方やちょっと見たい方、画質に拘らない方には
手が出しやすいんじゃないだろうか?
これを機に不思議な感じの作風に多くの人が視聴されるのは実に喜ばしい所。
OP曲で流れる「DUVET」が映像と合って印象的なのとEDで詠う仲井戸麗市氏の歌詞も魅力的。
安倍吉俊氏のオリジナル・キャラクターデザインも作品に実に合っている。
ブルーレイはDVDに無い特典映像等あるので作品に惚れてしまったら、高画質を堪能するのも悪くない。
「ハロー・ナビ・・・」
垓層宮
5040円と少し高いが、装丁、内容を見れば納得できる値段。阿倍吉俊の絵に傾倒しているのなら安いと感じるはず。
約13年の間に描いた絵を詰め込んだそうだ。
10枚ほど書き下ろしを加えて、ちょっとしたストーリー仕立てに読ませるようになっている。でも、相変わらず何を表現したいのか今ひとつよく分らない。「回螺」にあるような阿倍流の難解な感触を覚える。
帯が函に巻き付いています。破らないよう気をつけてください。
灰羽連盟 TV-BOX [DVD]
どこか懐かしい街並み、人々が忘れたものが残されているような風景。グリと呼ばれる壁に囲まれたその街には、人間とともに灰羽という翼の生えた人々が暮らしている。過去の一切の記憶を忘れて、繭の中から生まれてくる灰羽たち。ある春の日、繭から灰羽の少女が一人生まれ、ラッカと名づけられる…。
lainのキャラクターデザインで知られる安倍吉俊さんが同人誌に発表した「オールドホームの灰羽達」をアニメ化した作品です。同人誌の内容は1、2話で消化されていますが、その後の全ての脚本を安倍さん自身が手掛け、キャラクター、場面設定等を担当されているので、全編通じて安倍さんの個性が強く打ち出された作品になっています。
ストーリーとしては、グリの街と灰羽の生活をほのぼの描いた前半、灰羽の謎、ラッカとレキの罪と救済が描かれる後半に二分され、雰囲気は大きく異なります。特に後半のストーリーは圧巻で、ここまで深い喪失感と終末感が描かれている作品は珍しいと思います。
アニメの中でも数少ない、文学性を持った作品です。美しい映像と音楽が、物語と寄り添うように溶け合って、確固たる世界観を紡ぎだします。
灰羽やその謎に関する説明は少なく、多くは視聴者の想像に委ねられます。決してすべてにおいて丁寧な作品ではないように思います。前半から後半への展開は急ですし、ラッカとクウの関わりも、もっと時間を割く必要があったと思います。
しかし、それらを上回る感動が最終回にはあります。ラッカとレキというふたりの少女の物語は、荒削りな面もありましたが、本物だけが持つ輝きを秘めた傑作だと思います。
少女自転車解放区 (WANIMAGAZINE COMICS)
私は鬼頭さん、高坂さん等、好きなクリエータが何人もいたし、村田蓮爾さんがOVA「青の6号」以来好きでした。また、自転車もイラストも趣味として長年楽しんでいるので楽しめました。
それぞれのクリエーターさんのこだわりのあるロードからお買い物自転車を見ているだけでも楽しく、実車以上に美しく描かれたイラストはほれぼれもしました。
ですが反面、萌というようなイラストを期待しすぎると外すと思います。