赤い蝋燭と人魚
静謐さを秘め、幻想的で奥ゆかしさを感じさせる絵のタッチと、物悲しく美しい怖さを孕んだストーリーにハラハラ・ドキドキさせられ、又切なさを想わせる。個人的意見の一つとして、余り感受性に富んだ人間ではなくとも詩的な気分にさせられてしまう魅惑の絵本だと思う。空虚感だとか、救い様のない「堕ちてゆく」感覚と言えばいいのか。拝読後に引きずられる余韻はそこいらの絵本の非ではない。
小川未明集 幽霊船―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)
このシリーズはほとんど読んでいるが、子供のころの恐怖を書かせたらこの人の右にでるものはないのではないだろうか?
かくれんぼで遅くまで遊んで井戸の底から見あげる夕の星、嵐の中、両親を待つひとりぽっちの子供の焦燥感。誰もいない廃屋、帰りたいのに帰れない恐怖。
ホラーマニアにとって、極上の時間を過ごせる珠玉の短編。
朗読 日本童話名作選「でんでんむしのかなしみ」
自宅介護している病気の父親のために購入しました。
たくさんの話が入っていることと話し手さんの話し方が非常に聞きやすいので良いと思いました。
父親は、それなりの年齢のため、知らない話が多いかもしれませんが、基本的に童話ですので誰でも楽しめる内容だと思いました。
小川未明童話集 (岩波文庫)
電車での一人旅の道すがら、気が向いたときにのんびりと本を読みたいという理由から、本屋で何の気なしに手にとった本がこの文庫であった。パラパラとページをめくったときに「汽車」「レール」などの文字が多く目つき、短編の童話集であるからぶつ切りで読むにはちょうどいいだろうと、特に深く考えることも無く買い求め、ジーンズの後ろのポケットに入れた。
私には、その旅行の印象が一つも残っていない。言うまでもない。この童話集に夢中になってしまい、旅行などどうでもよくなってしまったからだ。誤解を恐れずに言うなら、この童話集は現実よりもリアルだ。
それぞれの作品の中では、動物が言葉を操ることもある。さらには、風やレールといった生命を持たないものまでが会話をする。そのことだけを見れば、荒唐無稽で現実感のない話に映るかもしれない。しかし、にも関わらずリアルな物語として成り立つのは、著者の眼差しの深さによる。
著者は、全作三人称で物語を描き、その中に自身の感想は極力入れないようにして、淡々と時系列で物語を進めていく。ただただ、そこに在るものをそのまま言葉にしているといった趣である。私は、描かれた物語の脇に、その物語をじっと見続けている著者の眼差しを感じる。人を愛し、自然を愛した人の、穏やかな眼差しがそこに在る。著者の実感がすーっと私の心に流れ込んできて、とても暖かいもので満たされていく。
この童話は、今、この場所から少し離れて気分転換をしたいが、そんな時間はないという大人にこそ読んでもらいたい作品である。