人類共通の夢かもしれないおすすめ度
★★★★☆
小さくて太っていて、ちょっと威張った王様と「僕」とのちょっとした友だちづきあいを通して、「僕」はいろいろなことを考えさせられる、という短いお話。
おとな向けのおとぎ話だから、もちろん寓意に満ちた物語。
特に印象に残ったのは、命のはじまりについて王様が語る場面だ。王様は、どんどん記憶がなくなるので、自分がどのように誕生したのか忘れてしまった。王様と女王様がなにかを一緒にするはずなのだが、いったい何だったか思い出せない。
「じつは、思い出したのだ」
王様はうれしそうに「僕」に教えてくれる。
王様の国では、まず王様と女王様がしっかりと抱き合う。それから二人とも目をつぶり、そして……なんとベランダから飛び降りるのだ。二人がちゃんとしっかり抱き合っていたら地面がトランポリンのように弾み、二人は天まで飛び上がる。そのとき二人が取ってきた星をベッドのなかに入れておくと、人間の子どもが生まれる。
どうして命がうまれるのか、という疑問は、人類共通の疑問に違いない。桃太郎は桃から生まれ、かぐや姫は竹から生まれたが、日本には定着した譬え話は存在しないようだ。
命のはじまりといい、大人になればなるほど幼くなる人物といい、どこかで読んだ気がする物語だ。ちょっと記憶をたどってみたところ……、あった! そうだ、芥川龍之介の『河童』だ。
『河童』の中にはやっと12か13歳になったばかりに見える100歳過ぎのカッパが出てきた。
もうひとつ、カッパのお産では、父親が「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」と大きな声で尋ねる場面があった。
生まれたときから何でも自分で決められる存在でいたい、いや、生まれる前から自分の運命を自分で決めていたい。――それが、人類共通の夢のひとつなのかもしれない。
大切なモノを思い出させるおすすめ度
★★★★★
我侭で尊大な王様だけど、なんだか憎めない。
そんな彼の言葉には、いつの間にか失くしてしまった大切なモノを思い出させる何かがあります。
忙しい日々をおくる大人にこそ読んで欲しい一冊です。
不思議で、シュールなストーリーが魅力的。
挿絵がとてもキレイで本自体も薄いので、さらっと気分転換に読める本です。
ちいさな王様が語るさかさまな奇想に、不思議な魅力があります
おすすめ度 ★★★★☆
ドイツのミュンヘンでサラリーマンをしている僕と、部屋の壁と本棚の隙間を通って、時折ひょっこり訪れるちいさな王様との物語。年を取るに連れて、だんだんと身体が小さくなっていく王様。王様と僕との会話は、奇妙な論理と深遠な哲学を感じさせるもの。逆説的な発想や、ナンセンスなセンスといった点で、G・K・チェスタトンの『ブラウン神父の童心』や『ポンド氏の逆説』といったミステリ短篇集に通じる不可思議な魅力がありました。
小さな太った王様が語り手の僕に向けて言う言葉の端々に、「この現実は、本当に見たまんまの現実なのだろうか。身の回りで起きていることにもっと疑問と好奇心を持ち、想像力を働かせて眺めてみることが大切なんじゃないか」と、そんなメッセージが込められているのですね。
ゾーヴァの絵では、表紙の一枚をはじめ、真紅のマントを身に着け、七つのとんがりのついた王冠をかぶったちいさなちいさな王様が、妙にリアルな生彩感を帯びていたのが印象に残りました。
普通の単行本より一回り小さいサイズの本の中に、「大きくなると小さくなる」「眠っているときに起きている」「存在しないものが存在する」「命の終わりは永遠のはじまり」「忘れていても覚えている」の5つの章からなる話と、ミヒャエル・ゾーヴァが描いた18の挿絵(表紙の絵も含めて)が収められています。