土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)
1978年に文化出版局から出た単行本の文庫化。
水上勉が手がけた食のエッセイである。副題のとおり、月ごとに食材・食べものを取り上げ、自身の幼少時、寺の小僧だった時代、執筆当時の軽井沢での生活などを絡めて語っている。
寺での厳しい食のしつけ、貧しかったが野の食には恵まれていた子ども時代に培われた食への感性が、軽妙かつじっくりと重みのある文章に仕上げられており、読み応えがあった。名文である。
それにしても、寺の食事というのは質素でありながらも贅沢なものだ。くわいをゆっくりとあぶったり、梅を根気よく干したり。
最高の人生の終り方~エンディングプランナー~ DVD-BOX
『最高の人生の終り方』は葬儀屋を主人公とし、タブーとされがちな死生観に迫る好企画である。死者の意外な真実と秘密を解き明かすサスペンスと、主人公の兄弟姉妹を描くホームドラマの二面性がある。当初はサスペンス要素が中心と思われたものの、警察に対する描写は甘く、亜流の刑事ドラマの趣もあった。
警察御用達の葬儀屋が警察官にビール券を贈る。刑事が犯人憎しの思いから犯人拘束後に暴力を振るう。家庭裁判所の検認を経ずに遺言書(と思われたもの)を開封させるなど脚本の粗が目立った(林田力「『最高の人生の終り方』脚本の粗を吹き飛ばす山下智久と前田敦子の兄妹愛」リアルライブ2012年2月28日)。
その中でドラマを盛り上げていたものが井原晴香(前田敦子)ら兄弟姉妹のぶつかりあいというホームドラマ要素である。兄弟喧嘩で食事を相手にぶっかけるという演出には昭和の香りもする。表向きはバラバラであるが、実は深くつながっているという関係は大ヒットドラマ『家政婦のミタ』を連想させる。画一化させる前近代的な特殊日本的集団主義とは異なる家族コミュニティを提示する。
飢餓海峡 [DVD]
重厚な映画とはこの作品のことをいうのでしょう。しかし、肩も凝らず、
長時間緊迫感を保って決して飽きさせません。後年カラーの松本清張作品や
市川昆の横溝正史作品が流行しますが、その映画としての原点は此処に
あります。永遠に旧さを感じさせない、日本映画の金字塔だと思います。
飢餓海峡 (上巻) (新潮文庫)
『海の牙』と共に水上勉の社会派推理作家としての代表作であると共に、彼が推理作家から脱皮しつつあった頃の作品です。昭和29年に青函連絡船洞爺丸が沈没するという事件が起きました。そして同日に北海道の岩内町で町の三分の二近くが焼ける大火事がありました。ところが洞爺丸のニュースがあまりにも大きかった為に岩内町の火事は殆ど報道されなかったそうです。水上勉はこの出来事を借りて、洞爺丸を層雲丸、岩内町を岩幌町と改名して、実際には失火だった火事を放火に置き換え、放火犯が逃走途中で仲間割れを起こして殺し合い、死体を層雲丸の沈没でごった返す津軽海峡に投げ捨てて、沈没の被害者のように装うという犯罪を考え出しました。更に、舞台を戦後の混乱期である昭和22年に遡らせたことがミソとなっています。
同様に洞爺丸沈没を素材にした推理小説に中井英夫の『虚無への供物』がありますが、両者の作風があまりにかけ離れているので、洞爺丸沈没に興味を持って両書を手にした人は戸惑うことでしょう。ある出来事に人間がどのように想像力をかき立てられるかは正に千差万別なのですね。ところで、私の読み落としかも知れませんが、本書にはひとつ活かされずに終わる伏線があるような気がします。時子のところを尋ねてきた謎の人物は結局誰だったのでしょう?
最高の人生の終り方~エンディングプランナー~ Blu-ray BOX
先ず、山下智久がごく普通のサラリーマンを演る事に興味を抱いた。
これまで、特殊な職業(?!)のキャラを演じてきた山下。年下の演者との絡みも珍しい。
葬儀屋の仕事はともかく、兄貴として兄弟達を優しく見守る、真人の眼差しが温かい。父親の死や長男の病気を乗り越えて、家業である葬儀屋を継いで家族の為に頑張る真人の姿に勇気づけられる。
榮倉演じるユウキとのテンポ良いシーンも印象的。
井原家の庭での愛犬「コタロー」や謎の男「岩田」とのコミカルな演技は見ていて楽しい。
ある意味「昭和」な懐かしさ漂うドラマであった。