劇的な展開はありませんが、人間の原点を思い出させる挿話が登場し、身につまされたり、心に沁みたり、人と人との出会いや交わりが希薄になりつつある現代を省みる読後の余韻ある作品でした。
谷口ジローさんの書く日常や表情はリアルで、体験したことのない風景もどこか懐かしく、日本のどこかにこういう日常がまだあるのかなぁと希望に似た思いを感じさせてくれました。
地味だがしみじみといい作品集であるおすすめ度
★★★★★
‘93年に単行本として発売された作品を文庫化したもの。原作は内海隆一郎(小説家)の「人々シリーズ」と呼ばれる短篇小説集から選ばれた8作品である。
主人公は老若男女様々であるが、母親のわがままによって彼女の実家に預けられることになってしまった幼い娘、息子夫婦の家を飛び出してしまった兄、といずれもチョット訳ありの人物である。描かれているのは、これらの人物の日常に起こるこれもチョットした事件であるのだが、そこには、彼らの繊細な心の動きが描かれている。谷口ジローのオリジナル作と言われれば信じてしまいそうである。
この頃から、彼の作品は、現在のように繊細な線で背景の中に人物が溶け込んでいるような絵で描かれるようになる。この作品はそんな画風にぴったりの作品である。
原作者によるとこの短編集のマンガ家を持ちかけたのは谷口ジローだそうであり、200編あまり書かれていたこのシリーズから8編を選んだのも彼だったそうだ。谷口ジローは原作者の作品の中に自分のオリジナル作と何か通じるものを感じていたのだろう。
この作品の出来は、これも原作者のあとがきにある「できあがった作品すべてが、わたしのなかにあるものと寸分ちがわないのである。これは原作者冥利というほかない」という言葉が全てを表している。地味だがしみじみといい作品集である。
近年、著者の作品が少しずつではあるが文庫で再版されている。文庫は気軽に読めていいのだが、やはり彼の作品は単行本で読む方がいい。
細部まで妥協なし
おすすめ度 ★★★★★
届いてからずっと気に入っています
。これは買わねばならないでしょう!
買って良かったと思います。