江戸時代の一般社会や庶民の経済活動を,文書を資料として現代の眼で紹介する書物は今や珍しくなくなった。これらを読み比べて,地方の特色を読みとるのもこの種の本の読者の愉しみとなろう。その点でも,本書は酒田という当時東日本有数の湊町の様子を示しており,興味深い。
それにしても,当時の社会が現代から考えると武士以外に対しては意外にも寛容であったことにあらためて思い当たる。(この本で罪を犯して死罪になっているのはごくまれで,ほとんどは所払い。)もっとも,所払いになった者がしばしば舞い戻って,また捕まっているところを見ると,貧しい人びとにとって他郷で生活することは現在よりもはるかに大変で,そういう意味では結構重い罰であったのかも知れない。
幕末から明治維新にかけて,東北は飢饉が続いたが,社会の規範が徐々にゆるむのと共に貧しい人びとが社会の底流で流動し始めている様子も現れてきている。近隣の藩ではどうだったのであろうか。
酒田湊も大変だった!おすすめ度
★★★★★
「ネタ本を明かすのは歴史作家にとって致命的」と著者が自ら言うのもうなずける。なにしろこの足軽目付たちの記録、むちゃくちゃに面白い。
ただの仕事の記録ではなく、回りの人びとへの嫌味やら愚痴やらも満載。当たり前のことだが、当時の人も今の人も変わらないんだなぁとつくづく思う。
ただ、その面白さをちゃんと引き出せるかどうかはやっぱり著者次第。この本の面白さは、著者の歴史作家としての力量によるところも多いといえるだろう。
とっても興味深い本でしたおすすめ度
★★★★☆
酒田の足軽目付さんたちが、江戸時代中期(18世紀後半)から明治2年までに書いた「御用帳」の中から、酒田で起こる犯罪と足軽目付さんの活躍を描いたものです。盗賊、自殺騒動、行方不明者の捜査、殺人、汚職、海難救助等、足軽目付さん大忙しの様子が楽しく読めます。
それ以外にも、江戸時代にどんな罪を犯せば、どうなるか?当時の風俗や社会情勢など興味深い点が多かったです。
引用は少なく、現代語で書かれた部分が、ほとんどです。安心して読めます。
町を守る小役人・・・・その味はコレ
おすすめ度 ★★★☆☆
早い夏休みに草津へ出かけ、温泉から上がり、火照った身体に涼風を受けながら腹ばいになって一気に読んだ。缶ビールに枝豆をつまみながら・・・そういえば・・・・近世酒田・鶴岡は名だたる「だだ茶豆」の産地だ。おじいちゃん・おばあちゃんが江戸時代から黙々と作り伝えてきた味。日本海の砂と風、出羽三山の清水に育まれた味・・・・・それは、あたかも酒田の町にうごめく庶民の一人でありながら、いっぱしの武士でもある足軽目付という小役人達の生活の味。営々と記録された膨大な事件簿に描かれる人物達は、だだ茶豆の味がする。
幕末の奥羽列藩同盟の争乱に巻き込まれ、消えていった江戸時代人の姿が、この味である。