現代人にも通じるほろ苦い味わい/コクのある時代短編を堪能しようおすすめ度
★★★★★
■岩井三四二のコクのある時代小説7編を堪能した。
■「祗園祭に連れてって」は、応仁の乱の後33年間途絶えていた祗園御霊会(ぎおんごりょうえ)の山鉾巡行(やまぼこじゅんこう)を復活させるよう上層部から命じられた小役人・三左衛門の右往左往ぶりを描く。かなり昔に中断した祭なので皆記憶が不確かになっている。そして各町の結束や資金力がまちまちで、それぞれ難題を抱えている。おまけに比叡山延暦寺が妨害めいた圧力をかけてきた。近年の幕府とのいざこざが背景にあるのだ。果たしてこんな状況で無事に祭は復活できるのか――。現代の中間管理職の板ばさみの構図にも通じるものがあり、読者はほろ苦い共感を覚えること必至。
■「迷惑太閤記」は、年老いた加賀藩士・笠間儀兵衛が娘の見合い相手の青年を試すため、木刀で試合をする話。既に時代は戦乱の世ではなくなっているので、実際の合戦を生き抜いてきた儀兵衛にとって若い武士は皆腑抜けに見えて、苦々しい気持ちなのだ。そんな折、版本「太閤記」が評判になっていると聞き、自分が登場して活躍する情景がきっと描かれているはずだと期待して読んだ。がそこに書かれていたことは彼を激怒させる内容だったーー。
■その他の5編も味わい深く、読了後の充実度抜群。瀬戸内の海賊が登場する話がいくつかあって、興味をそそられた。
あたふた
おすすめ度 ★★★★★
「いい人はいつの時代も、あたふた。」「あなたによく似た人物が、歴史のあちこちで四苦八苦。」とのキャッチコピーがついた歴史短編集。歴史の一コマを捉え、そこに歴史の表舞台に登場しない人々の人生を描き、滑稽さとほろ苦さを交えた世界を見せてくれる作品です。非情に読みやすく、ベストセラー「難儀でござる」を超える短編集です。
思わず一緒に「たいがいにせえ」と言いたくなる。