ニュー・アメリカ パート・ワン(第4次世界大戦)
Erykah Badu(エリカ・バドゥ)といえば、かつてのネオソウルムーブメントを代表するアーティストとして、70年代SOULの影響を受けつつ、音数を絞ったHIPHOPトラックと、浮遊感のあるボーカルで、独自の世界を持った作品を発表してきました。
本作は四年ぶりにリリースされたアルバムで、第4次世界大戦という副題の通り、シリアスな曲で統一されたコンセプトアルバムです。
リリックは、全編を通じて現代社会の歪み、特にアフリカンアメリカンを取り巻く現状に警鐘を鳴らしています。
1曲目Amerykahn Promiseで皮肉を込めて、全てが手に入る国“アメリカ”を賛美し、続いてHIPHOPの元に“私達”が団結し、前進することを鼓舞しています(2,3,4)。その後、奴隷として連れて来られて以来変わらず厳しい状況におかれている、同胞の現状を残酷なまでに正確に描写しながらも(5,6,7)、困難は乗り越えられると歌い上げます(8,9,10)。特に、故J DILLAへ捧げる曲である10曲目Telephoneでは、彼の死を悼みつつも、現世に残された我々は現状にあきらめずに前進していく、という強い意志が感じられます。
トラックはサーラ・クリエイティブパートナーズをメインプロディーサーとし、抑圧された世界を実験的なトラックで表現しており、リリックの内容をさらに際立たせることに成功しています。
本作は全篇に渡って先進的かつ挑戦的な曲で構成されており、かつての作品にあったような、美しいメロディーも、幸せなラブソングも収録されていません(唯一のラブソングであるリードシングル「Honey」はボーナストラック扱いです)。その一方で、音楽を通じて社会を前進させる、というエネルギーで満ち溢れており、現代の「What’s Going On(Marvin Gaye)」であり、「There's a Riot Goin' On(Sly and The Family Stone)」、「There is No Place Like America Today(Curtis Mayfield)」といえます。
まさしくErykah Baduから抑圧者への挑戦であり、宣戦布告なのです。
レイター:ヒップ・ホップ・ソウル [DVD]
音楽モノのDVDって、短かったり、内容が薄かったり、どうも中途半端なものが多いと思う。値段のわりに。
これは、イギリスBBCの人気番組レイターに出演したアーティストによるパフォーマンスを収録したシリーズ第6弾で、ヒップホップソウル特集。
これがもうステキな面子が揃っていて、『95年のディアンジェロから2004年のカニエ・ウェストまで』という謳い文句。なかなか滅多に見れない人らもいます。ま、ぶっちゃけ「ヒップホップソウル」という切り口と、揃っている面子がだいぶズレてるような気がするけど(笑)。ネオソウル寄りな人がかなり占めている。StreetsやJameliaなんかもいるのが、いかにも英国のイマの番組でしょう。
しかも33曲収録、一部アーティストには(番組中の)インタビュー映像もあって、これがまた良い。総収録時間は166分!まんぷく。
個人的推しは、6.ERYKAH BADU "On And On"、14.JILL SCOTT "Getting In The Way"(バックコーラスにVivian Greenが!)、15.GLENN LEWIS "Don't You Forget It"、17.SADE "Is It A Crime"、19.KANYE WEST/SYLEENA JOHNSON "All Falls Down"(バイオリンはMiri Ben-Ari、そして後ろにJohn Legendが!)、25.INDIA ARIE "Brown Skin"、29.TWEET "Oops"、30.TERRI WALKER "Ching Ching"、31.VIVIAN GREEN "Fanatic"、32.ANGIE STONE "No More Rain"、33.FUGEES "No Woman No Cry/Fu-Gee-La"。
インタビュー部分は、古館伊知郎みたいな司会者とピアノ前でトーク。
インタビュー中には、アリシアはファンならおなじみのあのカヴァーを自らピアノ弾いて歌うし、ビヴァリー・ナイトは"His Eye Is On The Sparrow"で激ウマな喉を披露するし、アンジー母さんはソウル・クラシックを、ヴィヴィアンちゃんはしっかりジャズを歌う、みたいな。
こういうシーンの収録のほうが、より「おいしい」かも。
最高のともだち [DVD]
あまり注目されていなかった作品だとは思いますが、
ハートウォーミングで泣ける作品でした。
人間設定にあまりリアル感はないものの、
アメリカ的というか日本なら古きよき時代を彷彿させます。
13歳という微妙な思春期を巧く演出していて、
少年時代を演じたアントン・イェルチンが好演しています。
そしてロビン・ウィリアムズの存在感。
加齢ぷりも実に自然で流石はベテランの味。
大人になっていく少年と病気で子供のままの二人のコントラストが、
作品に深いテーマをおとしています。
主人公が大人になりやがて自分のルーツを辿る事になるのですが、
このくだりではなぜか涙ぐんでいるほどでした。
なんでしょう?時がどれだけ経ようが互いに分かり合える心の絆・・・。
デビッド・ドゥカブニー、監督としてもやるじゃ〜ん!
Baduizm
ネオソウルを代表する女性シンガー、エリカ・バドゥのファーストアルバム。
彼女の声は果実を思わせる爽やかな甘さがあり、非常に聴きやすく魅力的。
いきなりどぎついファンク・ソウルはちょっと・・・という方にも安心して
薦めることができます。
どの曲も静かで、伸びやかなリズム。心から余計な物が出てゆき、ただ
音の中に溶けてゆくような感覚を味わえます。
乾いた土臭さを感じる渋好みな演奏が、一層ボーカルの甘みを引き立てます。
重厚なベースラインはレゲエ・ダブにも通じる快感をもたらしてくれます。
時代を経るにつれて、テクノロジーの進歩と引き換えに多くの音楽は
音自体の持つ独特の空気、情景を呼び起こす力を失ってしまったと思います。
そういった意味において、90年代後半に発表されたこの作品は非常に稀有な存在でしょう。
後の2作品も勿論素晴らしいのですが、やはりこの作品には一歩及ばないと感じます。
どこかで少し「こういう風に作ろう」という意図を感じてしまうのです。
このアルバムは全くそれがありません。まるで自然の営みの中で生まれた有機物の様です。